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咲「えっと、トイレは……。」
咲はトイレを探そうとしたが、入り組んだ通路の中に立たされると迷子になってしまう不安が膨らみ、どうしても歩き回って探す勇気が出なかった。
と、そこに従業員が通りかかった。
咲「あ…す…すいません。」
従「はい?」
切れ長の目が特徴の青年らしい顔に、ほとんど女性トーンの高めの声が不釣り合いに聞こえ、咲は瞬時戸惑ったが、すぐに本題に入った。
咲「あの…トイレって何処にありますか?」
従「トイレならそこの角曲がってすぐ右です。」
従業員は一番手前右手の分岐路を指差していった。
咲「あ、ありがとうございます。」
軽くお辞儀をしたとき、その従業員がスカートをはいているのに気付いて、つい声を漏らした。
咲「えっ!?」
従「え?」
咲「あ、いえ、何でもないです! すいません、ありがとうございました!」
従業員の不審がる顔を見ないようにしながら、咲は逃げるようにトイレに向かった。
トイレの個室に入ると、静かに深呼吸して気持ちを落ち着けようと努めた。
咲『あ~、ビックリした…。男の人がスカートはいてるなんて、ホント人間社会は分からないことだらけだ…。……でも、そうだよね。文化も何も違うんだもん。スカートをはいてる男の人を見て私がビックリしたみたいに、私たちが人の肉を食べるのを知れば人間はビックリするんだ。…いや、多分ビックリじゃ済まないけど、そういう文化間のわだかまりを徐々に解いていくために、私は人間社会に来たんじゃないか。あのくらいのことでしょげてちゃダメだ。 ……………うん、よし!』
咲の落ち込みかけていた心は、勘違いによるカルチャーショックで立ち直り始めていた。
そして、忍耐強くいこうと決心し、すぐトイレを出た。
部屋に戻ろうと角を曲がって、4つ並んだ扉のどれが自分の部屋だったか分からなくなった。




