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3-2-2

咲「とりあえず、こないだ教えてもらった通りにこれだけやってみました。」


咲は少し自信ありげにはにかみながらノートを広げた。



どれも方程式の基本問題ばかりだが、咲にとってはこれから学生生活するにあたってまず乗り越えなければならない壁だ。




しかし、その解答は慎一の予想の斜め上を行っていた。



慎「おお……、スゲェな。大分できるようになってる。」


咲「とにかく両方で同じことやればいいんだって割り切ってやってみました。そしたら何となく理屈も分かってきたような気がして。」



咲が嬉しそうに笑う。



慎『+、-の概念も分かってるみたいだし、次は()つきの式かな。』




慎一は、基本を大分理解できるようになった数学を踏み込んでやる前に、英語を教えることにした。


まだアルファベットもちゃんと教えていないため、このままではテストがあまりにも残酷なことになる。



慎「じゃあ、次英語やるか。」


咲「え? 数学は…」


慎「咲成長速いし、ここまでできるようになった数学の前に、アルファベットも読めない英語を先にやらないと。」


咲「ある…え? 何ですか?」


慎「アルファベット。」



やはり英語にはまるで触れてこなかったらしい。


慎「英語で使う文字のことだよ。ちょっと全部書いてみるから―――」





慎一がルーズリーフを取り出し、いざ書こうとした時、勇気と木葉の異変が視界の端に入った。






ハッとして見ると、2人とも口をパカンと開けたままこちらを見て固まっている。



慎『し、しまった! まさか、バレたか…!? …い、いや、でも、咲の学力はもうクラス中に知れ渡ってることだし…。』


慎一が何か言う前に、勇気が開きっぱなしの口を動かした。




勇「…南さんてさ、前の学校ではどんな感じだったの?」


木「方程式も最初にやるレベルの問題やってるみたいだし、アルファベットを知らないなんて…。」




一瞬ヒヤッとしたが、想定内の質問だった。



これには、答えを用意してきている。





慎『よし、咲! 打ち合わせた通りに答えてやれ! 行け――――――――――――!!!』










パッと咲を見ると、難しい顔をして心の汗をダラダラと流していた。




慎『咲!?』


咲「え…え~っと、その……実家がすっごい山奥の、すっごい田舎で、まともな学校もないところで……。だから、ちゃんと学校に通うのはこれが初めてで…。」



ほとんど棒読みな上、1つ1つ思い出しながら言っているせいでいちいち語尾が上がる。




しかし、慎一が勇気と木葉を見た時にはその表情が納得していた。



勇「へえ~、そうなんだ。まだ日本にもそんなトコがあるんだな。てか"実家は"ってことは、学校通うために独り暮らししてるの?」


咲「え、ええ…、一応…。」


木「じゃあ色々大変ね。私たちに何かできることがあればいつでも言ってね。」


咲「あ、ありがとうございます。」



咲も慎一もホッとした。


とりあえず丸め込むのは上手くいったようだ。




実際、高校生とは思えない学力の原因をごまかせてしまえば、特にごまかすのに苦労する事柄はもう残っていない。















2人はそう思っていたのだが。


















勇「あ、じゃあさ。」


咲・慎『ん?』


勇「転校初日の最初に"私には近づかないで"って言ってたじゃん。あれ何で?」


咲・慎『何!?』


木「そういえばね。その割には今日普通に来てくれたし。」



2人はもう怪しむような目はしていない。


咲は別に普通の子だと信じたからだろう。




だからこそここでほころびができると、せっかくごまかせたことまでまた探られて台無し(→惨劇)になる可能性がある。





そして、この問いに対する答えは用意してきていない。





咲「そ…それは……。」


慎『頑張ってくれ、咲!』



"緊張で答えにまごつく"時間を差し引いても、2人が疑心を抱き始めるのにそう時間はかからない。





慎一はただ咲の機転を信じるしかなかった。




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