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2-6

慎「…はっ!」


という声とともに目を覚ますと、咲が目の前でビクッとなった。



慎「あ…あれ……? 咲?」


咲「だ…大丈夫ですか?」


慎「俺は一体……あ、あの男は!?」


咲「彼なら大丈夫です。ちゃんと軟膏塗って治療した後、ベランダから外に放り出しときましたから。」


慎「…ここ2階だよな?」


咲「それより東さん、大丈夫ですか?」


慎「それよりって…。…まぁ、もう平気っぽい。」



慎一は最近気絶癖がついてきたのを実感しながら、少し残るめまいをおして立ち上がった。



改めて見ると、部屋は盛大に血まみれになり、咲も恐らくすすいだと思われる口周辺と手以外は血まみれだった。





しかし、慎一を心配する眼差しには優しさしかうかがえない。


一眠りしたせいか、咲への恐怖もほとんど残っていなかった。



慣れとは恐ろしいものだ。





外を見ると、もう真っ暗だった。



慎「ヤバいな、随分長居しちまった。そろそろ帰るよ。…てか、俺が咲の見舞いに来たのに咲に心配されてちゃダメだよな。」


慎一は苦笑を漏らした。


咲「そんな…そんなことないですよ! それに、また私のせいでケガさせてしまって…。」


咲はどうやら笑っていられるテンションではなかったらしく、今にも泣きそうな顔で謝って来て、慎一は慌てた。



慎「い、いやいや、咲は何も悪くねえよ! つーかあれだし! ケガなんかしてねぇし! ただ眠くて寝てただけだし!!」


咲「そうなんですか…?」


慎「ああ、もう昨日徹夜で何かしら作業してたからね! も~眠い眠い。だから、咲が気にすることなんか何もねぇよ。」


咲「……ありがとうございます。」



咲に少し笑顔が戻ると、慎一も安心してカバンを持った。



慎「じゃあ、またな。酒はやるよ。」


咲「あ、はい。」


慎「明日は来れそう?」


咲「はい、大丈夫です。」


慎「なら良かった。おやすみな。」




慎一が玄関に向かって歩き出してすぐ、咲が慎一を呼び止めた。




咲「あの…!」


慎「ん?」


咲「その……、名前で呼んでくれてありがとうございます。何か距離が近付いたみたいで嬉しいです。」


慎「え? ………あ。」


慎一はいつの間にか自分が咲をなれなれしく呼び捨てにしているのに気付いて、急に恥ずかしくなった。



しかし、咲は嬉しそうだ。血まみれで。



咲「苗字に敬称って何となくぎこちなかったんです。私も名前で…慎一くんって呼んでいいですか?」





はにかみながらの質問に、NOと言えるわけはなかった。





慎「ウン…、イイヨ。」


恥ずかしさでカタカナ表記になるくらい棒読みの返事に、咲は満面の笑みで喜んだ。



咲「じゃあ…、おやすみなさい、慎一くん。」


慎「ウンジャア」


慎一は、更にかつてないほど親しげに名前を呼ばれた気恥ずかしさで、句読点無表記になるくらい棒読みの別れを返し、そのまま逃げるように部屋を後にした。




咲はしかし、嬉しさで慎一の恥じらいには気付いていなかった。



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