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男は窓を閉めて鍵をかけ、ふっと一息ついた後、ビシッと咲を指差した。
?「改めて見つけた! 鬼灯族め、覚悟しろ!」
慎「やめろ! 咲に手を出すんじゃねえ!!」
?「ん? 何だお前は?」
慎「お前こそ誰だ!?」
?「ふん、ガキに名乗る名はない。あえてト書きのために"男"と名乗っておこうか。」
慎「自称男!?」
男「え…じゃあ……Aとかで。」
慎「ていうかお前の自称はどうでもいいんだよ! さっさと出てけ! 警察呼ぶぞ!!!」
A「どっちでも良いのかよ! …まぁどっちでもいいか。俺が用あるのはこの女にだ。お前にじゃない。邪魔をするようなら容赦しねえぞ。」
Aはバットを左手でポンポンと叩いた。
慎「くっ…!」
さすがの慎一も、十分自分の頭を割るに足る鈍器を携えた大人を目の前にひるんでしまう。
…ていうか前回は銃火器だったわけだから武器のランクは落ちてるのだが、どっちかというとそれで殺されるのをイメージしやすいバットの方が怖かった。
A「聞き分けが良いな。」
Aはそう言うと、寝ている咲の上体を起こそうと手を伸ばした。
それを見た時には、慎一は無意識のうちに男に飛び付いていた。
慎「やめろォ!!!」
A「!? クソ、放せ!」
Aが振り払った拍子に、慎一は弾き飛ばされて壁に思い切り頭をぶつけた。
一瞬目の前が真っ白になり、視界が開けても平衡感覚がおかしくなって世界が回る。
A「…たく、邪魔するからだぜ?」
Aはため息をつき、落ち着いて咲の上体を起こした。
慎『クソ…、こないだも俺は何もできなかったってのに……。』
咲を助けたかったが、体が思うように動かない。
その間にも、Aは咲をおぶって立ち上がっていた。
A「じゃあな。せいぜい眠っとけや。」
慎『チクショウ…!!』
慎一はただ心の中で毒づいた。
Aは窓に近づくと、片手で悠々と鍵を開け、窓に手をかけた。
その時、咲が目を覚ました。
咲「んぇ…?」
A「ん?」
恐ろしいことに、咲の酔いは覚めていなかった。
咲「良い匂い…♪」
A「え、ちょっ…うわ~~~~~~~~~~~!!!!」
Aは総毛立って咲をおぶっていた手を放したが、咲はしっかり男に組み付いていた。
A「だあああああああああああああ、放せ――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!」
Aが引き離そうともがき出した瞬間、部屋中に断末魔が響き渡った。
慎一は、今度は甦った咲への恐怖で動けなくなった。
血しぶきが慎一の顔にも飛んだ。
部屋がみるみる赤く染まっていく。
ふと、"酒血肉林"という言葉が思い浮かんだのは慎一だけではあるまい。
そのまま慎一は気を失った。




