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2-3

玄関を通ってすぐ右に洗面所のものらしい扉があり、そこを通り過ぎるとまた右手に台所が直結し、正面には居間があった。


台所から居間が見えるようになっている。


居間の正面側にはベランダへの窓があった。



慎一はそこらに血がついてはいないかとビクビクしながら、少し散らかっている居間に座った。


脚が折りたためるテーブルが壁に立てかけてあり、中央に布団が敷いてあって隅には小さなテレビがある。



散らかっているものも服だったり教科書だったり、あるいはファッション誌だったりして、血痕どころか、鬼灯族出身を示唆するものは1つも見当たらなかった。


そして慎一の感情は、徐々に恐怖から緊張へと変わっていった。


確かにそこで咲が生活している、その場所に自分がいる緊張。



直線で描けそうなくらいガチガチに固まったまま、正座してこぶしに力を入れていた。



と、何故かなかなか居間に来なかった咲が、背後から何かを持ってきた。



慎一の目の前の布団の上に座り、持ってきたお盆からコーヒーを1つ慎一の前にそっと置く。


咲「どうぞ。インスタントで申し訳ないですけど。」


慎「ア、ハイ、コリャドウモ…」


抑揚のない返事とともに、湯気の立つコーヒーカップを取り、一口すすった。



慎『…美味い。』



何か変なものが入っているわけでもない。


ちょうど良い苦みと温度が、慎一を少し落ち着けてくれた。



咲を見ると、カップを持ったまま慎一を優しい目で見ていた。


窓から差す夕日で影になる表情が何とも絵になっていた。


慎「…美味いよ。」


その一言で、咲は少し安心したようにまた笑った。



そして、咲もコーヒーを飲もうとカップを口に近づける。







…そこまでは良かったのに、あろうことか、咲はマスクをとらなかった。







慎「あ、南さ…」


咲「!!」


マスク越しにコーヒーが口に入ってくる違和感が、それまでの優しい表情を驚愕の色に染めた。



乱暴な音を立ててカップが置かれ、咲が顔を真っ赤にしながらマスクを外し、手近のごみ箱にダンクした時には、部屋からムードが消えていた。



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