20
始業式。
咲は来なかった。
担任が、咲は春休み中、急に父親の仕事の都合で引っ越したということを伝えた。
クラス中が驚いている中、慎一は微動だにしなかった。
今年も同じクラスだった勇気や木葉、その他の友達も皆慎一を慰めたが、慎一は事前に知らされて知っていたと、至って平静だった。
それで、周りも「ならいっか」と慰めるのをやめた。
勇気と木葉だけは本当に悲しそうに、慎一から事情を聞こうとしてきたが、慎一は担任の言う通りの理由だと言い張り、ちゃんとお別れもしたとまで言った。
何故言ってくれなかったのかということについては、やはり急だったのと、慎一自身悲しくてそれどころじゃなかったと言えばそれで納得していた。
いつのまにこんなに口が達者になったのか、慎一はそれがその日一番の驚きだった。
帰宅後、やることもなく、慎一は30分ほど椅子に座ってぼーっとしていた。
ふと、壁に貼ってある写真が目に入る。
修学旅行の時、クラス全員で撮った集合写真だ。
ゆっくりと立ち上がり、その写真の前まで来た。
そしてゆっくりと、画びょうを外し、写真を手に取る。
確かにそこには、慎一と咲が笑顔で写っていた。
咲の笑顔がまぶしく。
写真に一滴落ちた。
慎一はその場にくずおれて、声を上げて泣いた。
早帰りだったおかげで、誰にも聞かれないまま嗚咽が消えていく。
咲がその時笑っていたかどうかは誰にも分からない。




