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2-2

担「じゃあ室長、号令。」


木「きりーつ。」


木葉の号令で全員が無気力なさようならを告げた。



慎『一応南さんのお見舞い行きたいけど、家知らないし、死にたくないしなァ…。』


担「あ、東、ちょっと来てくれ。」


慎「はい?」


慎一が担任のところへ行くまでに、担任はA4サイズの封筒を取り出していた。


担「悪いけど、これを南の家まで持ってってくれないか。これ地図な。」


慎「何ですか、これ?」


担「色々連絡事項だ。しばらく来れそうにないらしいし、そろそろテストだから日程とか範囲とかな。よろしく。」


慎「ああ、はい…。」


慎一はつい出たため息が、来るテストに向けてのものであるのに気付いて、少し複雑な気分になった。


まだ咲を心配してため息までは出ないことを、何故か当然で片づけたくなかった。




――――――――――――




封筒を手に持ったまま、乱雑な地図を頼りに咲の家らしい古いアパートにやってきた。


「おじぎ荘」という文字がそれぞれ思い思いに傾いている。



慎『204号室か。』


慎一は早々に地図をポケットに押し込み、建物端の階段を上がった。


一番手前の扉に「201」と書いてあり、扉は4つある。



廊下を進み、204号室の前まで来て、慎一は大事なことを思い出した。






慎一は、今まで一度も女の子の家のチャイムを押したことがなかったのだ。






それに併せて、咲が独り暮らしである可能性が脳裏をよぎった。


慎『昨日の咲の話だけ聞くと、独り暮らしの可能性はかなり高い…。い、いや、しっかりしろ、俺! 相手は俺の彼女だ! 何をためらうことがある! それに、この封筒渡すだけじゃねえか! 簡単だ!!』


チャイムを指差したまま姿勢でしばらく固まった。


手汗が滴り落ちる。



慎『いっけ―――――――――!!!!』



慎一は思い切り目をつぶったまま、意を決してチャイムを押した。


お決まりの音に、咲の返事が聞こえて心肺停止に陥りかけた。



そしてすぐ後に、鍵が開き、扉が開いた。



咲「あ…、東さん?」


慎「あ、ぇと……や……やぁ!」


咲「?」


慎『「やぁ!」じゃね~~~~~~~~~~~~!!!!!!』


テンパりすぎて気さくな挨拶を取り違えた恥ずかしさで、慎一は頭を抱えて悶え始めた。



咲「あの…」


慎「はッ!? あ、ゴメンゴメン、こ、これを届けに来たんだよ。」


あくまでテンパりながら、手に持っていた封筒を咲に渡した。



その時に初めて、咲がマスクをして、顔も少し赤いことに気付いた。



咲「これって?」


慎「れ、連絡事項とかだってさ。」


咲「あ、そうですか、ありがとうございます。」『何だろう、この手の形の濡れ跡は?』


咲は小首を傾げながら小さくペコペコとした。


慎「あ、それで、体の方は大丈夫?」


咲「はい、ちょっと風邪引いちゃいまして。良かったら上がっていってください。」


慎「そっか、じゃ、あんまり長居しちゃ悪いし………は?」


咲「せっかく来て下さったお客様はちゃんともてなしなさいってお父様によく言われたんです。」



真っ赤な顔が、マスクの下でしっかり笑っている。


慎一はしかし、何よりもまず危機回避本能の警告を感じた。


風邪がうつるくらいならまだしも、血を見ることになるかもしれない。


必死で言い訳をつくろった。


慎「い、いやでも、南さん風邪なのに、悪いよ!」


咲「え、帰っちゃうん…ですか?」


得意満面だった笑みが、一気に寂しげな表情に変わった。



慎一は良心の呵責の恐ろしさを実感しながら、結局玄関をくぐった。




背後で閉まる扉が必要以上にきしむのは、そういう仕様だった。




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