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18-5

その後しばらく、気まずい雰囲気は居座り続けた。


慎一は咲の「そういえばキスしたことないね」という言葉に返すタイミングを逸し、焦っていた。



慎『…な、何て言えばいいんだ? "じゃあする?"とか? は、恥ずかしい……。でも"そうだね。"と返すには時間が経ちすぎた…。』


恥ずかしさで咲の顔を真っ直ぐ見れず、うつむき加減で食べ進める慎一だったが、たまにチラチラ咲の方を見ても、自分と同じ感じだった。


それがますます気まずさを増幅させる。



慎『…で、でも、このまま黙りっぱなしは良くないよな…。………よし…!』


慎一はハンバーグを咀嚼しながら決心し、ハンバーグを飲み込んでから水を1口飲んで、万全の態勢をとった。



慎・咲「あの…」



喋り出すタイミングが丸かぶり、一瞬綺麗なハモりになった。


が、それだけであった。




お互いに「あ、ゴメン、先に喋っていいよ」という気持ちを表してはいたが、遠慮しすぎてまた会話が途絶えた。



慎『ぬああああ…、ダメだ…、緊張する―――』


咲「あの。」


と、慎一が苦しみ悶えている時に咲が喋りかけてきた。


救われたような気分と、何となく申し訳ない気分が同時に襲ってきたが、そんなことよりこれ以上気まずくさせないため、平静を装いながら返事をした。


慎「ん?」


咲「あ…えっと……、そ、そうだ、人間のキスって、あれ何でするんですか? 鬼灯族にはあんなことする習慣がないので…。」


慎「ゴフッ」


非常に恥ずかしい質問が、無垢な咲から飛んできた。


しかし、これ以上変な汗をかかないためには言うしかないと、慎一は覚悟を決めた。



慎「え、え~っとね、その…俺らみたいな、恋人同士とかが、お互いに好きですよって表現するため…か、な?」


咲「へ~。」


咲は割と普通に驚いていた。


慎『ふぅ…。』


咲「じゃあ、私たちもしてみませんか?」


慎「え???」


咲がサラッと恥ずかしいことを言ったので、びっくりして見ると、咲の顔は普段恥ずかしがったりテンパったりする時よりは赤くなっていた。















――――――――――――――――――――――――――――――













2人でファミレスを出る。



「キスを人前でするのは、個人的にも世間的にも恥ずかしいから」といって、何とか店内での実行は回避した。


しかし、「じゃあ人がいない所で」と、咲が珍しく押してきたので、慎一は首を縦に振ってしまった。



慎『人がいない所って、こんな都会にあんのか…?』


もうすっかり暗くなっていたが、見渡せば何処かに1人は人がいるような状況だ。


慎一はいけそうな所を探してキョロキョロしながら咲と歩く。



もちろん人がいない所などそう簡単に見つからない。




咲「キスできそうな場所ないですねぇ。」


咲もだんだん慣れてきたようで、「キス」という言葉を発するのに躊躇が感じられなかった。


慎『咲、ホントにキスするつもりだな…。マジかよ、心の準備心の準備…!』


緊張で鼓動が早くなる。


そのせいで一瞬周りが見えず、挙動だけは見渡していたのに、人がいなさそうな路地を見逃して通り過ぎていた。



慎「ないな。」


咲「ないですね~。」





なんて言い合っているうちに、咲の家に着いてしまった。





慎「あれ?」


咲「結局、キスできなかったですね…。人間社会の愛情表現、試してみたかったんですけど…。」


ようやく我に返り、見ると、咲はそこそこ悲しそうな表情をしている。



慎『………しまった。』




慎一は、キスできなかったことより、咲の期待に応えられなかったことの方が痛かった。



咲「じゃあ、私はこれで。今日は楽しかったです。また映画行きましょう。」


慎「あ、そ、そうだな。じゃ。」



目の前で咲が玄関の鍵を開ける。





まだチャンスはある。


問題は何処でするのか、まだ決まっていないこと。






咲が扉を開ける。









慎『と、とにかく呼び止めるだけでも………って、あ!』











慎「咲!」


咲「はい?」


慎「咲の家なら人いないじゃん。」


咲「え? ―――あ。」



2人して一瞬呆れ笑いが出た。




咲「じゃあ…、どうぞ。」


慎「お、お邪魔します。」



咲に導かれて中に入る。


"キスするために"女の子と一緒に部屋に入るというのが、慎一をたまらなく緊張させていた。




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