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そのファミレスは、時間の割には空いていた。
慎一たちはテーブル席に通され、その間も席に着いてからも、咲はずっと周りをキョロキョロと興味津々に見回していた。
慎『珍しいんだな、やっぱり。』「何食う?」
慎一が言いながらパッとメニューを広げる。
咲はそれを目の当たりにした途端、目をまん丸にして釘づけになった。
咲「うわ! 美味しそう!!」
今度はニコニコしながらメニューを舐め回すように眺める。
その挙動が面白くて、慎一は少し笑いをこらえていた。
しかし、慎一はすぐに決まったが、咲はなかなか決まらない。
慎一も「これは? これは?」と提案してみるが、どれもこれも美味しそうすぎて全く決まらないという。
30分ほど経ってようやく決めたのは、結局一番シンプルなハンバーグのセットだった。
慎一はチーズ in ハンバーグセットにしたので、それを少しあげるからという約束のもと、咲は決定を下したのである。
無事に注文も終えたが、ボタンを押すと音だけで店員がやってくることにまた咲は驚き入り、「何処から鳴った音なのかすぐに分かるのは何でだ?」といった怪訝そうな表情で、注文を聞く店員をずーっと眺めていた。
――――――――――――――――――――――
食事中、咲はナイフとフォークの使い方がさっぱり分からず、結局箸で食べ進めている。
慎一は慎一で、ご飯もあるし持ち替えるのメンドくさいからと、最初から箸で食べていた。
最初、美味しさに感動していた咲も、しばらく食べ進むうちに静かになり、沈黙の中、カチャカチャと食器の当たる音だけが響く。
それに慎一は気まずさも感じていなかったが、静かなせいで、頭の中は映画の回想モードに入っていた。
慎『そういえば、アニメ映画のくせにちゃんとキスシーンあったな。さすがデスティニー…。』
慎一個人としては気まずいシーンだっただけに、それを思い出してしまうと沈黙が突然気まずくなった。
咲を見ると、ただ食事を楽しんでいるだけの表情である。
慎『さっきまであんなに泣いてたのに。』
慎一はまた面白くて噴きそうになった。
しかしそれだけ確認すれば、頭はまた回想モードに入る。
しかも、色んな意味で最も印象的だったキスシーンがその主なものだった。
慎『…そういえば、キスってしたことないな。一番最初、いきなりキスが来るのかと思ったら喉に咬みつかれたのも懐かしい…。』
慎一にとってだけ、この空気がますます気まずいものになっていく。
いっそ開き直り、「そんなこともあったな」と、あえて咲が気にしてそうな最初の出来事を笑って語ろうかと思い立った。
慎『――――――よし。』「そ―――」
咲「そういえば。」
慎一は出端をくじかれて更に一瞬大きな気まずさを感じたが、何事も無かったかのように振る舞う。
慎「ん?」
咲「私たちってキスしたことないですね。」
慎「うん。―――ん?」
見ると、楽しそうに食事をしていた咲が、途端に顔を赤らめて、しかし別に恥ずかしくない風を装うかのようにハンバーグを食べ続けていた。




