18-3
慎一は映画が終わった後、エンドロール中に席を立つタイプではなかったので、それも全て見届けた。
明るくなってから席を立ち、2時間ほど座りっぱなしだった体を思い切り伸ばす。
慎「面白かったな、咲。」
パッと咲の方を見ると、最初あれほどビクついていた咲が、今度は号泣していた。
慎一もさすがに焦り、どうしたと聞く。
咲「うぅぅ……良かったぁ~…。良かったねアンナ~……。」
慎『初めて見る映画ってこんなに感情移入できるもんなのか…。』「さ、咲。出よか。」
咲「グス……はい………。」
慎一はハンカチを出して咲に渡し、その手を引っ張って劇場出口を目指した。
周囲の目が気になるところではあったが、だからこそ早く出たくもあった。
チビっ子たちもいて、泣いている咲を見てあからさまに笑っているのが聞こえてきて、慎一は速度を上げた。
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咲の嗚咽は、映画館の休憩所に座り、ジュースを飲みながら10分ほど経ってようやく落ち着いてきた。
咲「ものすごい感動しました…。初めて観るアニメだったし、映画だったし…。人間ってすごいもの創りますね。」
慎「あ、アニメも初めてなのか。それにしても泣きすぎだろ。」
慎一のひやかし笑いに、咲は食ってかかる。
咲「な……だって、良かったじゃないですか! アンナも素敵な人と結ばれて、エリーゼも蕗の薹の呪いから解放されて…。あれ観て泣けないなんて、慎一くんの心って結構冷たいんですね。」
慎「いやいや、冷たくない冷たくない。でも、これを機に、咲も色んな映画なりアニメなりを観てけば、だんだん慣れてきて泣くことも減ると思うぜ。」
咲「…まぁ、泣くことが減るかどうかはともかく、色んな作品を観てみたくはなりました。」
慎「うん、また来ようや。」
咲「はい。」
話がまとまったところで、2人は夕飯を食べる店を探しに映画館を出た。
生ぬるい風が慎一と咲を撫でる。
だんだん暖かくなってきて、空気にもそれらしい匂いが付き始めてきたのを慎一は感じていた。
慎『去年の今頃は、こんな風になるとは思ってもみなかったなぁ…。』
会話が途切れたのをいいことに、慎一は今年1年を回想していた。
去年とは比べ物にならない程、たくさんのことがあった。
咲が隣に来て、でも咲を殺そうとする連中もいて、それでもその連中を追い払って、勇気と木葉にも咲は信じてもらえて――――――
そして咲と2人で過ごした時間がものすごく楽しかった。
今もそうだが、それを最近、慎一は当たり前に思い始めていた。
慎『咲と2人っていいな。』
慎一が映画に泣くほど感情移入しなかったのは、単にもうありきたりのラブストーリーに慣れてしまったからだけではなかった。
咲「あ、慎一くん。」
慎「ん?」
咲「何か食事できそうなところありますよ。」
と咲が指差す先には、ファミリーレストランがあった。
それを「食事できそうなところ」と表現するしかない咲の語彙力の乏しさが愛おしかった。
慎「じゃああそこにするか。」
咲「はい。あの店は初めて入ります。」
咲は無邪気に笑った。
慎一も笑った。




