18-2
約束の日、2人は久しぶりにコロネに来ていた。
咲「ここ久しぶりですね。」
慎「そうだな。以前勇気と木葉も一緒にボウリングとカラオケ来て以来か。」
咲「そういえば、そこで勇気君と木葉さんに私のことバレちゃったんでしたね。」
慎「そうだそうだ。」
今だからこそそうである笑い話を語りながら、2人は映画館に入った。
春休みとあって、平日だというのに人が多い。
慎「さすが春休み。」
咲「ここで観るんですか?」
慎「ああ。この列に並んで、奥でチケットを買うんだ。」
と言いながら見ると、モニターには、「14:20 アンナと蕗の薹 通常字幕 △」と書いてある。
慎「あ、結構ヤバいな…。」
咲「え?」
慎「ほら、ちょうどいい時間、14:20からのヤツ、△がついてるだろ? あれは席がもう残り少ないですよってことなんだ。」
咲「席…?」
慎「まぁ…早い話が、もしかしたら人がいっぱい過ぎてあの時間のは観れないかもってこと。」
咲「え!? それじゃあ……」
咲がにわかに絶望に打ちひしがれ始めたので、慎一は慌てて補足した。
慎「あ、でもだ! まだ時間はあるし、ほら、16:30からのでもいいでしょ? 通常吹き替えのやつ。」
咲「え、1日に何回もやるんですか?」
慎「うん。」
咲「へえ~。なら安心です。」
何もかも初めてな咲が浮かべる驚きと発見の表情を、慎一は久々に見た気がした。
それだけ、咲が人間社会の色んなことに慣れてきているということなのだろうなと思った。
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結局、14:20からのチケットを買うことができ、2人は5番シアターの前の方の席に並んで座った。
咲「な…な……なんですかこの…塗り壁みたいなのは………?」
咲は初めて見る大きさのモニターに仰天していた。
慎「このでっかいモニターで観るんだよ、映画ってのは。」
咲「ええええ…。考えられない……。」
慎「初めてならなかなか感動すると思うよ。」
咲「ほおぉ……。」
その後はしばらく会話が途切れ、代わりに咲がひたすら怪訝そうな顔でモニターを見つめ続ける時間になった。
慎一はそれを横から見ていたが、どうも納得がいかないらしい表情が面白くて、ついにやけていた。
しばらくして照明が消えた。
咲「な、何が始まるんですか!?」
慎「映画だよ。『アンナと蕗の薹』だよ。映画終わるまでは静かにな。」
咲「は、はい…。」
と、予告編が始まり、その音の大きさで咲がビクッとなったのが、画面をちゃんと見ていた慎一にも分かった。
その後はちょっと大きな音がするたび、怯えたように肩をいからせ、恐怖とも取れる表情を絶やさなかった。
慎『怖がりすぎだろ…。まぁ、初めてならしょうがないのか?』
慎一は少し心配になってきたが、始まってしまったものはしょうがないということで、普通に映画を楽しむことにした。
慎一は映画が始まる前の予告編集も楽しんで観るタイプだったので、次第に横でビクついている咲の挙動も気にならなくなった。




