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17-3

慎「―――ってことがあってな。咲、しばらく学校来れそうにねぇと。」


勇「マジか…。」


木「ホントにそういう体質なのね。しょうがないわよ。」


翌日、慎一は咲の家であったことを、勇気と木葉に話した。



慎「ああ、俺もそういうのは分かってるつもりだったけどさ。あんな風に襲いかかられると普通に怖かったな。」


勇「禁断症状ってどうすれば収まるんだよ?」


慎「いつもは肉食えば収まってたらしい。ただ、今回はどんだけ食っても意味が無いって。」


勇「厄介だなぁ。」


木「……ねぇ。」



木葉が最初に比べてものすごく神妙な面持ちになって口を開く。



慎「ん?」


木「その…何、そういう状態になった咲ちゃんがさ、もし自分で玄関の鍵開けちゃったら? 生きた人の肉を求めて街に飛び出す危険は絶対に無いの…?」


慎「…いや、大丈夫だろ。昨日だってずっと家にいたんだし…。……うん。」


言いながら、慎一はどんどん不安になっていった。


万に一つでも、咲が外に出てしまったら、咲が人を襲ってしまうことは十分考えられる。


そして、"白昼堂々、人を喰い殺したゾンビ少女"とメディアが大はしゃぎし、殲滅協会は正当な理由に嬉々として討伐を強化。





――――――悲しむ咲。





慎「…見張ってた方がいいな。確かに危ねぇ。」


木「うん。」


勇『そんなにか?』


1人だけ追いつけていない勇気だが、慎一の決意は固かった。
















――――――――――――――――――――――――――













帰りのホームルーム終了。


と同時に、慎一は自分が出し得る最高速度で教室を飛び出した。


後ろで木葉たちの「ちょっと待って」が聞こえた気がするが、それすら見捨てて走る。



普段ろくに走っていない足だが、いざという時一瞬だけならものすごい力を見せる。




あっという間に咲の家に着き、階段を上がるカンカンカンという足音で16ビートを刻んだ後、慎一は咲の家の扉をノックした。


そこはあくまで平静を装って力を弱めたが、それ以前にチャイムを鳴らせばいいことを忘れていた段階で冷静ではなかった。



慎「咲!! いるか!? いたら返事してくれ!!!」


ここに来るまで、狂暴化した咲は見ていないし、ここからも見えない。


ならここにいるはずだ。


慎一は咲がそこから何事もないような顔で出てくることを祈った。



せめて、その声が扉の向こうから聞こえてくることを。






待つ間、慎一は息を整え、祈ることしかできない。



数秒が数時間に感じられた。

















―――と、そこで突然、階段を駆け上がってくる音がした。






慎「なッ…まさか……。」



最悪の事態を予測した。








口元血まみれで、返り血を浴びまくった、狂暴化した咲が、階段を上がり切ってくることを。








はたまた、全く関係ない人が大急ぎで全く関係ないその人の部屋に駆け込んでいく可能性もある。









慎『咲……!』













数秒後、階段を駆け上がってきたのは木葉だった。



慎一は良かった~~~と声に出しながら、両ひざに手をついて、緊張のこもった息を思い切りよく吐いた。


そのあと、ゆったりと歩いて上がってきた勇気の足音は、木葉の足音で聞こえなかったらしい。



木「何が良かったの? 咲ちゃんいた?」


慎「あ、そうだ、それがまだ―――」


咲「は~い?」


慎「!?」


扉の向こうから、いつも通りの咲の声がした。



昨日の慎一の言いつけを守ってか、扉は開けないが、その声は間違いなくいつも通りだった。




慎一は安心しながら、確認すべきことをする。


慎「さ、咲! 大丈夫か? 今日外に出たりとか、途中記憶がなかったりとか、そういうの無いか!?」


咲「あ、はい。今日は昨日に比べたら全然楽です。ホント、寝れば治るもんですね。」


慎「そっか! 良かった。うん、それがちょっと急に気になっただけでな。」


咲「ただ、やっぱりまだちょっと残ってるんで、完全に引くまではまだ学校は行けないです。」


慎「ああ、それでいい。ゆっくり休んで治してから来てくれ。」


咲「はい。じゃあ、私ちょっと寝ますね。」


慎「うん、おやすみ。」


咲「おやすみなさ~い。」



扉越しの会話は非常にスムーズだった。



木「…良かったわね。咲ちゃん、元気そうで。」


慎「ああ、ホントに。まぁでも、一応今日しばらく見張ってから帰るよ。」


勇「そっか。慎一が見張ってくれるんなら、俺は帰ろうかな。」


木「そうね、あとは慎一くんに任せましょう。」


慎「うん、悪いな、心配してくれて。」


木「全然、全然。咲ちゃんのこと、ちゃんと見ててあげてね。」


慎「ああ。」


元々そんなに心配していなかった勇気と、一緒に心配してくれた木葉が、2人とも同じように笑って慎一に手を振った。



慎一も手を振り返し、2人を見送ってから、1人寒い中玄関先で佇んでいた。




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