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17-2

しばらくすると、扉を叩くのが止まった。



慎一は恐怖で荒くなった息を必死で整えながら、扉を強く抑える手の力を徐々に抜く。


慎『何なんだ…? 咲が凶暴化して…。……でも、今はもう襲ってくる感じがしない。』



ただ慎一に襲い掛かるのを諦めただけで、まだ凶暴性は失っていないのかもしれない。


しかし、慎一は確かめずにはいられず、意を決して扉の向こうの咲に呼びかけた。




慎「咲!」


咲「! 慎一くん?」



慎一は涙が出そうなほどホッとした。


と同時に、正気に返ったらしい咲の「慎一くん?」という質問調が気になった。



慎「咲、どうしたんだよいきなり。」


咲「どうした…って?」


慎『覚えてないのか…?』「今日咲が学校休んだからプリント持ってお見舞いに来たんだけど、どんだけ呼んでも返事がなくて、玄関が開いてたから入ったら咲に咬みつかれそうになったんだよ。」


咲「えッ…!?」


咲は、先ほどまでの出来事について全く覚えていないらしい。


咲が取り乱しているのが見なくても分かり、慎一はここで責めるような口調は厳禁だなと感じて優しく問いかけた。


慎「覚えてない?」


咲「は、はい…。でも何か、今朝から禁断症状がひどくて、どれだけお肉食べても収まらないんですよ…。」


慎「!?」


咲「それですごくしんどくて、何とか学校に連絡したんですけど、何かその辺から記憶がなくて……。今も目まいがひどいです…。」


慎「マジか…。ともかく、今外出ると危ないな。今みたいに暴走するかもしれない。」


咲「あ! も、もしかして私……、慎一くんを咬んじゃったとか…?」


焦りと、申し訳なさとで狼狽しきったその声が、こんな時に何とも愛おしかった。


慎「大丈夫。逃げ切ったから。」


咲「よかった…。」



咲が安心する声で慎一も安心したが、重すぎる禁断症状をどうにかしないと、咲はこの家から1歩も出られない。


しかし、肉を食べても収まらないのでは、他に打つ手が思いつかなかった。



慎「…とにかく、咲は禁断症状収まるまで学校は休まなきゃだな。というか、家から出るな。」


咲「はい。」


慎「で、安静にして、なるべく寝とけ。どんな体調不良でも寝れば結構治るもんなんだ。」


慎一はとにかく咲を安心させようと、事実のような出まかせのようなことを言った。



しかし、次に聞こえてきた咲の声は明るかった。



咲「分かりました。」


慎「うん。じゃあ、俺そろそろ行くから。お大事にな。」


咲「はい、すいません、色々と…。」


慎「大丈夫だって。」


慎一は立ち去ろうとして思い出した。


慎「あ、それと。」


咲「はい?」


慎「玄関の鍵はかけとけ。色々危ねぇから。」


咲「あ、はい、分かりました。」


その返事が言い終わらないうちに、玄関がカチャッと容赦のない音を立てた。



慎一はそれについて、安心感だけを覚え、その場を後にした。



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