16-5
咲「…………。」
咲の目の前には、空になった箱だけがあった。
チョコを自分が食べたことがなかったのを思い出し、1つだけ食べてみようと開けてみて、あっという間に完食してしまったのだ。
咲「こんなに美味しいとは…。チョコめ~~~…。」
逆恨みなのかも微妙な逆恨みをしつつ、しかし咲はそれほど焦ってはいなかった。
あれほど簡単なら自分にもできるという自信があったからである。
咲「よし、材料買ってこよう!」
咲は財布だけ持ってスーパーに繰り出した。
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さて。
咲「よし、材料も揃ったし、やるか!」
咲はまた三角巾とエプロンをしっかりと装備して台所に立っていた。
咲「まずはチョコを細かく刻む…。」
今度こそ手を切らないように注意して、木葉がやっていたようにチョコを刻む。
なかなか力がいる上、繊細なので、咲はクタクタになりながら、30分ほどかけて1枚刻み終えた。
咲「結構…疲れたな…。そういえば木葉さんの家では私、手ぇ切ってからは見てるだけだったもんなぁ。かえって手作りって言いやすくなったかも。」
長い独り言をつぶやきながら、鍋にお湯を沸かし始める。
咲「そういえば、温度が大事とか言ってたけど、私温度計持ってないな。」
一瞬体温計で代用しようかと考えたが、何か違う気がしてやめておいた。
仕方なく感覚で、沸騰し始めぐらいのところで火を止めた。
咲「で、チョコを溶かす。」
咲はボウルにチョコを入れ、そこに直接お湯を投入した。
しばらく待ち、チョコが溶けてきたところでゴムベラで混ぜ始める。
が、それはボートのオールで湖面をかくような手応えしかない。
明らかに咲の頭の中にあるイメージとは違った。
咲「おかしいなぁ…。こんなだったっけ?」
咲は小首を傾げながら混ぜ続け、チョコは溶けたものの、薄いホットココアのようになってしまった。
咲「さて、型にこれを入れて固めると。」
型は、スーパーに小さなものがあったのでそれを買ってきた。
そこにチョコ湯をなみなみと注ぎ、躊躇なく冷蔵庫へ。
咲「まぁ、大丈夫でしょ!」
咲はちょっとした達成感に浸りながら、余った板チョコの袋を1枚破いた。




