16-3
チョコを湯せんにかけ、ある程度溶けるまで待つ間、咲はそれをじ――――っと眺めている。
木「そんなに珍しい?」
咲「……珍しいっていうか………。」
咲は興味津々でというよりは、むしろ何かがどうしても腑に落ちないような表情で、それを見ていた。
木『何考えてるんだろ?』
木葉もそんな咲を観察していると、咲がパッと木葉の方を振り向いた。
咲「チョコって、何でできてるんですか?」
木「え?」
咲「何で作ったらこんな、普段固いのに熱で溶けるお菓子ができるんだろうって、全然想像できなくて。」
木「ああ、それでずーっとチョコを眺めてたんだ。」
咲はコクッと頷いた。
木「う~ん、私もちゃんと勉強したわけじゃないから詳しくは知らないんだけど、ガーナっていう国で、カカオっていう植物から作られてるはずよ。」
咲は不可解そうな顔をした。
咲「え? 詳しく知らないんですか?」
木「まぁ、作り方とかを詳細には、ね。でもカカオっていう植物の種、いわゆるカカオ豆っていうのから作られてるのは間違いないわ。」
咲「植物の種……。」
咲はまたチョコの方に顔を戻した。
と、それで木葉もチョコを見て気付いた。
木「あ、そろそろいいかな。じゃあ咲ちゃん、ちょっとボウルに水入れて。」
咲「あ、はい。」
木葉はゴムベラを手に取り、チョコを混ぜ始め、咲はボウルに水道の水を入れた。
木葉は温度計をチョコに差し、それを見ながらチョコをゆっくり混ぜていく。
咲「その棒は何ですか?」
木「ん? これは温度計。チョコ溶かす時は温度が大事だからね。」
咲「へ~~。」
しばらくすると木葉は水の入ったボウルの方に、チョコの入ったボウルを移し、混ぜ続けた。
咲『溶かすのに、冷やしちゃうの?』
木葉が真剣な顔なので、咲もなるべく黙って見ているようにしたが、目の前で木葉がやっていることに何の意味があるのかはさっぱり分からなかった。
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木「よし、いい感じ!」
木葉は一旦ボウルを離れ、何か金属の板を取り出してきた。
そしてそれを置くと、そこにたくさんくぼみが空いているのが分かった。
咲「これは?」
木「型よ。」
咲「肩?」
木「肩じゃない、型。ここにチョコを入れて固めるの。」
説明しながら、木葉はボウルのチョコをスプーンで型のくぼみに流し入れていく。
咲はそこでひらめいたように言った。
咲「あ! チョコを手作りって、こういうことか!」
木「そうそう。咲ちゃんも一緒にやろう。スプーン取ってきなよ。」
咲「はい!」
咲はるんるんでスプーンを取ってきて、木葉と一緒にチョコを型のくぼみに流し入れ始めた。
その時にようやく、型のくぼみの1つ1つがそれぞれ何かの形になっているのに気付いて、ときめきが倍増した。




