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勇「えぇ~~~~~~!? お前マジで南さんと付き合うことになったの!!??」
その日の夜、慎一の携帯のスピーカーから、勇気の声がひどく音割れしていた。
慎「うん、何かなった。」
勇「何だそのテンション、良かったじゃねえか! 何があったんだよ、南さん追いかけてったと思ったら4時間目終わりがけに揃って登校してきやがってよ。」
勇気は素直に祝ってくれていたが、慎一は未だにモヤモヤしていた。
今すぐにでも勇気に事の全てを打ち明けたかったが、事実が事実だけに、信じてくれそうもない。
慎「いや、まぁ…アレだ。あの男が悪漢でさ、俺が退治してやったら…ね。」
勇「あの男? ああ、あの追いかけてたような追いかけてなかったような、何だかかんだか分からなかったヤツね。」
慎「滑舌良ッ。」
勇「それにしても良かったな、マジで。親友として俺も嬉しいよ。」
慎「面白がってたクセに…。」
勇「いやいや、面白がってなんかないって! ちょっとドラマでも観るような感覚で応援してただけ。」
慎「面白がってる!」
勇「とにかく明日何かお祝い持ってってやるよ。木葉にも言って、しっかり祝ってやっかんな!」
慎一は勇気に見えないのをいいことに、ものすごく迷惑そうな顔になった。
ここで下手に祝われでもしたら、いよいよ慎一と咲の関係は確固たるものになってしまう。
慎「い、いや、そんなことしてもらわなくてもいいよ!」
勇「遠慮すんなって。お前も俺らのこと祝ってくれたじゃねえか。次は俺らの番だよ。」
こういう時、勇気はすごく男らしい面を見せる。
それが今の慎一には苦痛だった。
勇「じゃあまた明日な。 フゥッ! また明日な。」
慎「うん、またあし……何だ最後の。」
会話が途絶え、慎一の部屋は静かになった。
イスの背もたれに体重を預け、天井を見上げて息を吐く。
ともかく今は、咲が容姿では誰にも負けないという事実で自分を慰めるしかなかった。
いつ牙を剥くか分からないということを忘れないと、怖い夢のちおねしょのツーコンボを逃れられそうになかったからだ。
その夜は満月だった。




