14-5
足元の笹のじゅうたんが、咲に踏みしめられてザッザッと音を立て、咲を急き立てる。
背の高い竹のせいで、日光はかなり遮断され、ほとんど日陰だった。
咲は後ろからいきなり犬に吠えかかられやしないかとビクビクしながら、その恐怖心で足を速める。
また、地図上では確かにこちらからの方が近いのだが、思ったより距離が長く、咲は本当にここを通れば近道なのか疑問に思い始めていた。
慣れない道では、実際の距離より長く感じるものである。
咲『早く出たい…。早く学校に行きたい…。』
咲は息を切らしてとにかく走った。
その時だった。
「コラアア―――――――――ッ!!!」
突然の背後からの怒鳴り声が咲を止めた。
驚いて見ると、小太りのおじさんが立っていた。
しかも、来ている服には大きく、ブルドッグの顔がプリントされている。
咲『あ、や、野犬―――――!?』
男「ここは私有地だ! 勝手に入り込むんじゃねえ!!」
すごい剣幕で咲に言う男だったが、咲はもうそれどころではなかった。
咲「うわあああああああああああああッ!!!」
咲は恐怖で、叫びながら走って逃げだした。
男「あっ!! こ、こら! 待たんか!!」
足音で男が追いかけてきているのが分かる。
咲『や、野犬に襲われるってこういうことなの!?』
さっきの時点で切れていた息にも構わず、全速力で男から逃げる。
と、程なくして竹林の出口が見えてきた。
その向こうには学校も。
咲『助かった!』
咲は更にスピードを上げて一気に竹林を抜け出し、そのまま校門をくぐって教室目がけて走りまくった。
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慎「お、咲! 遅刻ギリギリだぞ!」
教室に駆け込んできた咲に、慎一はようやく安堵した。
咲「す、すいません…。寝坊しちゃって……。」
慎「寝坊て……。まぁ、何事も無くて良かったよ。」
咲「あ、でも、近道しようと思って通った竹林で、犬の顔が大きく描かれたTシャツ来たおじさんに怒られて追いかけられました…。」
慎「え、不審者!?」
咲「いえ、何か、その竹林の所有者さんだったみたいで、勝手に入るな~って…。」
慎「…え、咲はそれを振り切ってきたの?」
咲「はい……。すごい疲れました……。」
会話の最中もずっと息が切れているので、慎一はよほど急いで来たんだろうなと思った。
咲「でも、これで残すは"金属バットを持った男に襲われる"だけです。」
慎「え? あ、樹海で犬に追われるって―――なるほど、そういうことか。っていうか一番危険なヤツじゃん…。」
咲「確かに…。もし会員だったら――――――!」
咲は、慎一の机の横にかかっている袋に、「どっきりドンキー」と書かれているのに気付いた。
どっきりドンキーとは、そういう名前のホームセンターである。
咲「慎一くん、これは…?」
慎「ん? ああ、体操服。」
咲「ああ、なるほど…。」
咲は何となく理解した。
咲『ドンキー…。バットって、確か武器の部類では"鈍器"だよね。で、"どっきり"って、もしかして最後のバットのくだりって、これで終わり…?』
咲は、まさにドッキリに引っかかった気分で席に着いた。
そして、今はこのことは慎一に言わないでおこうと決心した。




