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95 : 君と僕と―― - 06 -


「こんなところで、ミゲルは何してたの?」

「ヴィンセントの手伝い。コンバーターのインクが切れたから補充に」

 ミゲルが指さしたのは、森の方角だった。


「あ、インク壺なら持ってるよ」

「ん。じゃ借りる。どうせオリアナも、ヴィンセントのところに行こうとしてたんだろ?」


 何故バレた。と思ったが、この道を通る学生の行き先はほぼ決まっている。この先には、森か薬草学の施設しか無いからだ。


 自習室にも図書室にもいなかったヴィンセントを探して、オリアナは薬草畑に行こうとしていた。二週間近く会えていなかったため、”お友達”として少し顔を見たくなったのだ。


「一緒行くか」

「お邪魔してもいい?」

「邪魔にはならないんじゃね? その代わり、汚れるだろうけど」

「またか~」


 今日のミゲルは実習着こそ着ていないが、ローブのあちこちが汚れていた。また畑の中で実験とデータ収集を繰り返していたのだろう。


 ヴィンセントは相変わらず、畑を耕す魔法道具を作っている。

 自由時間の大半を勉強に、そして残りの時間を発明に費やしていれば、確かにこの三年間でミゲルしか友人が出来なかったというのも頷ける。


 魔法道具の発明にはオリアナも何度か付き合っていた。陣を描かされることが多かったため、オリアナの裾には最近、いつも魔法紙とペンが入っている。


「飴食う?」

「ううん。お手伝いしだしたら手、汚れちゃうから」

「手伝う気満々じゃん~。やっさし~」

「えー? そうー? もっと褒めてくれてもいいよ」

「凄い凄い。汚れるの嫌がんないし、勉強で使わないような陣もいっぱい覚えてきてくれるし、めっちゃ助かってんよ」

「やだ止めてよ……ほんとに照れるじゃん……」

「照れさせてみた」

「もー! 上手いですなあ!」

「ははっ」


 いつから手伝っているのか、ミゲルはヴィンセントと絶妙なコンビネーションで実験を補助している。もちろん、オリアナは経験も知識も相性も、ミゲルの足下にも及ばない。

 けれどオリアナが卑屈にならずに済むのは、こうしてミゲルやヴィンセントが受け入れてくれるからだ。


 だからオリアナも、彼らの役に立ちたいと思い、陣の種類を勉強したり、一発で陣を描けるように製図の練習をしたりしている。

 人のために必死に努力するのは気恥ずかしいが、成果を喜んでもらえると嬉しかった。


(ミゲルも、もう将来のこと考えてるのかな)


 ヴィンセントとこんな風に、定められた勉強以外にも本気で取り組んでいるのだから、何かしらビジョンがあるのかもしれない。オリアナは口をむぐぐっと噛みしめる。

 腕を組み、体を捻って「んんんっ」と唸ったオリアナは、なんとも言えない顔でミゲルを見た。


「……ねえ~~?? ミゲルさん?」

「どうしました? オリアナさん」


「ミゲルさんは~その~将来の夢とか~お決まりなんです?」

「え? 何突然。進路調査?」

「いえ、その、へへっ……皆割としっかり決めてるみたいなんだよね。やりたいこともわからず、ぼーっと生きてたことが恥ずかしくなってきている真っ最中でして……」

「んー? そうか? ルシアンあたりは絶対にまだなんも決めて無いと思うけど」

「もしそれで決めてたらどうするの? 私ショックで寝込むかもしれないよ?? 責任取ってくれるの??」

「いいよ。結婚でもする?」

「やだ~! 私、将来伯爵夫人になれちゃうの……?」


 両頬を押さえくねくねしていると、ミゲルが笑う。拍子に、飴と歯が合わさった音が鳴った。


「まあ、俺は長男だからなあ。将来つってもなあ。――母親が青竜家の出だからそっちの娘さん貰うとは思うけど。そのくらいか」


 貴族として政に携わり、領地を治める義務を負うミゲルは、逆に将来について考えられる立場に無いのだろう。


「俺は将来よりも今の方が大事だな。――今が無いと、未来も無いから」


 深く考えたことも無いほどに当たり前のことを、あまりにもしみじみというものだから、オリアナはびっくりして足を止めてしまった。


「オリアナも、先ばかり見すぎなくていいんじゃね?」


 ミゲルがいつもの人を食った笑みを浮かべる。


「やりたいことを見つけるために、今は楽しめることを楽しんだら? やりたいことを探す、っていうのはつまり、楽しめることを探すってことだろ?」


 目から鱗とはこのことだろう。胸のつかえが下りたオリアナは、両手を胸の前で組んでミゲルを見上げた。


「……え? 人生の師と呼んでも?」


「やめろよ~。俺、オリアナとは友達がいい」


「やだー! 何ー! 可愛いこと言ってー! きゅんとさせないでよー! そんなん、ズッ友だよー! にやけちゃうから飴ください」


「はい」


 どうぞ、とミゲルが裾から取り出した飴は、グレープ味だった。オリアナは笑って礼を言う。口に入れた飴は甘く、不安を蹴り飛ばす力を持っていた。



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死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから (※ただし好感度はゼロ)
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