攫われたマナ
それから何度か森に連れて行ってもらった。
森の魔物は強くて、おかげでゲーム内の魔物が雑魚に感じた。
このゲームには、クリアというものがない。図鑑を埋めていくのもいいし、育てられる種もまだある。
それに、神様がゲームにない野菜等も入れてくれているし。
特に果物は嬉しい。
ダンジョンは一つだけ残っている。
今までのボスばかりが出てくるダンジョンだけど、究極の金属であるオリハルコンが採取できる筈だ。
今日は何をして過ごそう?のんびり釣りでもしようか?
今まではゲーム内に殆ど毎日入っていたけど、収納庫のストックも増えたし、森に連れて行ってもらえる時は、行かない日も増えてきた。
サイズ自動調節を付与しても、小さくなった服は着られない。
ルビー母さんは伸縮性のある糸も出せて、だからこの世界にゴムがあるかは分からないけど、下着もズボンもぴったりフィットする。
染料は手に入らないから、全部が白だけど、ルビー母さんが少しずつデザインの違う服も作ってくれるので、重宝している。
特にお気に入りは、ワンピースとスパッツのセットだ。
やっぱり女の子だからスカートも穿きたいけど、それだけだと戦闘の時に防御力が不安だから、スパッツとロングブーツで補っている。
そうして、もうすぐ5歳になるある日。事件は起きた。
風邪を引いて怠かった私は、蜘蛛の巣ベッドの上で、小説を読んでいた。
ルビー母さんは狩りに行ってしまい、スカイは一緒にお昼寝中。
うなじがチリチリとするような嫌な感覚。それと突然の強風に驚いて顔を上げると、金色のドラゴンと目があった。
(これが?…間違いはなさそうじゃの)
え?念話?…!
ドラゴンはマナを掴むと、空に飛んだ。マナの手から、スマホが落ちる。
(マ、マナ!)
スカイは、ドラゴンが怖くて近づけない。
(離して!…下ろして!)
今放り投げられたら絶対死ぬ。
しかしドラゴンは無視して飛び去った。凄いスピードで、結界を張らないと息が苦しい。付いてきていたスカイも、あまりにものスピードに、追いつけないようだ。
しばらく飛んで、山の上に降りた。
捕まえられたドラゴンよりも随分小さい、やはり金色のドラゴンがいた。
(母様、何故人の子を連れてきたんですか?)
(これは只の人の子ではないわ。分からぬか?この小さき者の発する力を)
地面に降ろされてもまだクラクラしているマナは、うずくまっていた。
(妾はこれをお前の番にしようと連れて来た。ドラゴンの女王の子の番として、これは相応しい者じゃ)
(ええっ?!人の子なんてすぐに死んじゃうじゃないか)
(だからこれは、只の子供ではないと言っているのじゃ)
(森に帰して!)
(母様、同意なく攫ってきたんですか!なんてことを…)
(これも竜族の繁栄の為じゃ。娘、お前は上位存在であるインペリアルドラゴンの番となれるのじや。有難く思うが良い)
(番が何か分からないけど嫌!私はルビー母さんとスカイの所に帰りたい!)
(母様、誘拐はだめだよ。インペリアルドラゴンは誇り高い種族じゃなかったの?)
(うむぅ…なら一度あの森に戻り、娘の親に了承してもらうのじゃ)
(なら僕が行くよ。母様はここを長く離れる訳にいかないだろう?)
(うむ…そうじゃな)
子ドラゴンの姿が、青年の姿になる。
「大丈夫?顔色が悪い。母様が無理をさせてごめんなさい」
「!ドラゴンが、人になった!」
「人化のスキルだよ。ごめんね、ここは岩場だから、柔らかい所もないけど」
スマホもないので、ゲーム内で休む事もできない。
とりあえずリンゴジュースを出して飲み、一息つく。
「へえ?時空魔法を使うんだね。なら亜空間は?」
分からないけど、使えない魔法なので、首を横に振った。
「まだ小さいもんね。収納庫を使えるだけでも凄いよね…そうだ。嫌じゃなかったら、抱っこしてあげるよ。どう?」
「ん…少しだけ、眠りたい」
マナは、青年の腕の中に収まった。…親ドラゴンは怖いけど、この人は誠実そうだ。
短い眠りだけど、少しだけ具合が良くなった。
ルビー母さん心配しているかな?スカイも。遠すぎて念話が届かない。
『補助魔法 神器召喚を覚えました』
…え?神器で思いつく物は、スマホ位しかない。
とりあえず初の補助魔法を使ってみた。
(ピイー!?!マナ?)
(あれ?何故にスカイが?)
「召喚獣?」
「従魔だよ。スカイ、もしかしてスマホ持ってる?」
(マナの宝物、持ってきた!ルビーが今、出かける準備してる。僕も準備してたんだけど…)
スカイは収納庫から、スマホを出した。
(なら、私は大丈夫って伝えて。母さんが森から出たら騒ぎになっちゃうから。時間はかかってもちゃんと帰るからって)
(うーん、パスは切れてないけど、すごく遠いよね?)
(うん…でもお願い!スカイだけが頼りなの!)
(マナは大丈夫なの?)
(うん。大丈夫だから、お願いね)
(分かった!任せて!)
スカイは、空に飛び立った。




