護衛依頼 6
馬車は、山間部に差し掛かった。ここを超えれば王都まではすぐだ。
「マナさん、さっきの町でこれ、買っておいたんだ。付けてみてくれる?」
うん?リボンか。光沢のあるサテン生地に似ている。
「ちょっと長いですかね?」
緩く編んだ三つ編みの先に結ぶけど、垂れ下がる。
「リボンを一緒に編み込めばいいと思うよ?」
そういう器用な事は、ルビー母さんじゃないと無理なんだけどな。
ていうか、茶色に黄色ってあんまり合わないよね?
「失礼致します」
有能な執事さんに編み込んで貰った。
「とても可愛いけど、元の色の方が、合うと思うな。少しだけ偽装を解いて見せてよ」
「嫌です。というより、リボンも貰う理由ありませんし」
「返されても困るし、貰ってほしい。王都に着いたら、もっといい物をプレゼントするよ」
うん?魔物の気配…ルードはぼーっと何か考え事してるみたい?
(ルード?前方に魔物の気配があるけど)
(ん?…ああ。ちょっとぼーっとしてた)
(ちゃんと眠れてる?)
竜は眠る事によって世界を感じているみたいだけど、私の眷属になったから、それも要らなくなったって言ってる。
その割にはよく寝てるけど、ルードによると、大人になる前の最後の10年は、成長期に当たるから、たくさん食べて、寝なきゃだめらしい。ていうか、10年も成長期あるとか羨ましい。
(なんだ。ボアか。ちょっと食べに行ってくる)
(ルード!私にも頂戴ね!)
ルビー母さんの念話が聞こえる。…あらら。仕事に行く前に貯めておいた食肉が空じゃん。いつの間に食べきったのか。
ルビー母さんもルードも、旅の間は少ししか分け前がない。とはいえ、普通の人には充分な量だけど、二人には絶対足りないから仕方ない。
私の収納庫に、ルードからボアの肉と、ホーンラビットの肉が少しずつ入る。すぐにルビー母さんが、肉を自分の収納庫に移す。
(ちょっと!少ないわよ!)
(仕方ないだろ。昼食にするとかで、持って行かれたんだから。しかも一番美味しい所)
うん。今日はボア肉の串焼きだね。携帯食にならなくて良かった。
私を経由してるのは、眷属同士で収納庫の中のやり取りができないからだけど、ユキとスカイに、お肉の差し入れを頼んでおけば良かったな。ここまで離れていると、念話が通じないから。
やっと休憩だ。山間部の少し開けた位置にあるので、行商人等も利用しているけど、貴族の馬車を見て、出発を急いだり、場所を移動させたりしている。
みんな面倒事には首を突っ込みたくないんだろうな。
でも中には、これ幸いと商品を売りに来る猛者もいる。
魔物の気配にはっと振り向くと、魚が空を飛んでいた。
スカイフィッシュって奴か。初めて見たな。空を飛びながら、水魔法で攻撃してくる。
ルビー母さんの槍の先に出したダークソードが、スカイフィッシュを突く。
結構高い所を飛ぶんだな。
(ルビー母さん、それ美味しい?)
(マナにはちょっと硬いかもね?)
処分するふりして収納庫に仕舞っている。
お昼ご飯を食べて、話しかけてくるラクルから少し離れて、木の上にするすると登る。
うん。いい眺め。
私じゃ攻略対象にならないっていい加減気がついてほしいんだけどな。
あ、ワシタカが飛んで来た。仕留めて二人にやろう。
投げナイフを投げて、仕留める。
「すごいね。ナイフで仕留めるなんて」
「そうかな?普通だと思う。ちょっとお兄ちゃんの所に行ってきます」
うん。やっぱり熟睡してる。
「お兄ちゃん!」
背後から抱きついたら、慌てて起きた。
「うわ!マナ、びっくりしたな」
(収納庫にワシタカ入っているから、ルビー母さんと分けて食べてね)
「珍しいね。こんな所で熟睡するなんて。どこか具合悪い?」
「眠いだけだよ。どうせなら前に回ってよ」
前に行ったら、そのまま抱き枕にされた。
「もー!お兄ちゃん!私が動けないじゃん!」
最近スキンシップとれてないから、私も嬉しいけどさ。
私も眠くなっちゃったな。
うとうとしかけて、魔物の気配に、はっと目覚める。
そのまま立ち上がろうとして、ルードの頭とごっつんこした。
「はうぅ…石頭!」
「マナこそ、口の中噛んだんだけど」
「じゃれるのは後にして!」
ルビー母さんが、結界で貴族達を守っている。
ロングテイルモンキーの群れだ。
木を使った立体機動に、マナも合わせて立体機動で間を詰めて、短刀を振るう。
あまりにもあっさりと狩られていく魔物の群れに、兵士達もどう動いたらいいか戸惑っている。
「…野生児」
その姿を見て、トールが呟く。
ほっといてよ。




