護衛依頼 1
ジーナから、久しぶりに手紙が届いた。
〈済まない。マナ。マナの簡易転移装置の専用コードが知られてしまった。無茶な依頼が来ても、何も気にせず断っても大丈夫だから〉
ジーナに何かあった?…もしかして、私と友達ってだけで、ポーラとソーニャにも…!
〈もふもふ家族様に指名依頼が入りました。王都のギルドに速やかに起こし下さい〉
次に出てきた手紙に、マナの表情が凍りつく。ギルドを通す所が、また狡い。
(ルード、今何してる?)
(狩りだけど、何かあった?)
(戻って来て。相談したい事があって)
こういう時は、人の社会をある程度知ってるルードが頼りになる。
すぐに亜空間に来てくれた。他の眷属達も、私の不安な気持ちが伝わったから、来てくれた。
私はすぐに、二枚の手紙を見せた。
「ジーナって、騎士の娘だっけ?」
「そう。お父さんが、隣のスーレリアの国で騎士してるって」
マナはルードにぎゅっとしがみつく。
「狙いは誰かな…僕かマナか。相手は相当高位の貴族だと思った方がいいね」
ルードが頭を撫でてくれる。
「無視したい所だけど、ギルドに依頼内容だけは聞きに行かないと。そこで受けるかどうかは判断すればいい」
「断っても大丈夫なの?ジーナに、友達に悪い事が起こらない?」
「絶対とは言えないけど、大丈夫だと思う。マナは何度か友達と手紙のやり取りをしてたから、簡易転移装置の所持にはギルド側も気がついていたと思うけど、そこは個人の事だから、コード番号を探ったりはしない」
「私が迂闊だったから」
「マナのせいじゃない」
「とにかく、これだけじゃ情報が足りないから、ギルドには行こう。ね?」
(僕は留守番…だよね?)
「特別枠に認められなかったからな。それにまだ、人化の維持に不安がある。本当にパーティーに入りたいなら、常に人の姿でいる位の努力はすべきだな」
(うっ…)
「ごめんね、スカイ。でもスキルは使わないと成長しないし。弓も命中もね?」
(分かった。頑張る)
まだ覚えてから1年も経ってないスキルだから、仕方ないけど、討伐依頼とかだったら連れて行っても問題ないと思うけど、貴族が絡んでいるから違うだろうな。
はあ。面倒な事になったな。
王都のギルドは沢山の冒険者でごった返していた。
というのも、空気を生み出す魔道具を、ギルドが販売まで手掛けているからだ。人数が多いパーティーは、使い回しながら使っているみたいだけど、他人が口に咥えた物を口に入れるのは何か嫌だな。
新しいダンジョンが見つかったばかりだから、この混雑も仕方ないのかな?
大人しく並んでいたら、順番が来た時に頭を下げられた。
「お待たせして済みません。ですが指名依頼なのですから、次回からは直接ギルマスを訪ねて下さい」
指名依頼、のくだりで皆ギョッとしたように私達を見る。
「指名依頼だ?こんな若造のパーティーが?嘘だろ」
「姉ちゃん、そんな弱そうな奴らの所にいるよりも、俺達の所に来ればいい思いさせてやるぜ?」
ルビー母さんは、さっきまで度々誘われてきたけど、その度に相手を威圧してたんだけど、懲りないな。
因みに私は一度も誘われていない。ちょっとは私も、胸大きくなったのに!
ユキは白い髪と赤い瞳なので、ルビー母さんと姉妹だと思われているみたいだ。
とりあえず、指示された通りに、2階に上がる。
ここのギルマスには前に散々怒られたから、ちょっと怖いな。
「おや、お久しぶりです」
あれ?部屋間違えた?
「あ、間違えてませんよ?ギルマスが所用で外しているだけです。どうぞ」
あ、ちょっと安心した。
「それで?どこの誰がマナ個人のコード番号聞き出した訳?」
「はあ。今回の依頼主とは別の方ですが」
「けど別に、ギルドに情報を売った訳じゃないだろ?」
「とりあえずは今回の依頼内容ですが、隣のスーレリア王国の王都まで、バレッタ伯爵様ご一家を護衛して頂く事です」
「ふうん…フォスター家は関係なさそう?ていうかさ、魔の森を突っ切るっていうんならともかく、わざわざAランク冒険者を指名する依頼でもないよね?」
「それが、こちらでもかなり有名な冒険者チームが盗賊達に同じ行程で大怪我を負いまして、かなり手練れの盗賊団が住み着いたようなのです」
「伯爵なんだから、私兵位いるんじゃ?」
「それでは不安なのではないでしょうか?」
「質問いいですか?確かギルド規定で、10歳以下の子供は護衛任務に就けないのでは?」
「そこはスーパー冒険者という事で。確かマナさん達は、対人戦はまだ経験ありませんよね?」
「そういえば、対人戦闘もこなせなければ高ランクにはなれませんでしたよね?」
「そうだっけ?」
対人と言えば、先生をしばいたのは戦闘に入らないのかな?まあ、単なる半殺しだし、終わったあとちゃんと治療したし。ていうか、先生が指導して欲しいって言ったんだけど。
「普通はそうですけど、実力が違うので。これを機会に対人戦闘もこなせる事も証明して欲しいですね」
さすがサブマスター。優しいだけじゃない。
こんな風にいわれたら、断りづらい。
ルードもそう感じているのか、眉根を寄せている。
母さん達は交渉事には向かないので、最初からルードに任せる事になっている。
「マナにはそんな経験、させたくないわ」
「母さん、ダメだよ。これは仕事だよ?子供だからとか、そういう事言えないよ」
「道中に護衛対象に無茶言われても、断る権利はあるんだよね?」
「勿論。皆さんは王の賓客でもありますから。どういう経緯でそうなったか私達は知りませんが」
うん。だからこそ、実力が知りたいって所かな?
「分かった。家族全員で当たるって事でいいのかな?」
「あ…申し訳ないのですが、獣人のユキさんにはご遠慮頂く事になります」
「何故だ?」
「奥様からの要請です。人族以外と旅は出来ないと」
「なら何でウチを指名したのさ?ユキが居るの知ってて」
「それは…済みません。ですが、兵士達も一緒なので、三人でも問題ないと、先方が」
「にゃーは要らないにゃ?」
「そうだね。本当ならそんな失礼な人、守りたくないんだけど」
ていうか、そんな事言ったら、ルードやルビー母さんも参加できなくなっちゃうじゃん?魔物なんだから。
「それなら、それを理由に断る事もできるよね?」
「いえ、一度受けると言って頂いたのですから」
「後から条件変わるなんて、契約違反にならないのですか?」
「依頼相手によって内容が変わる事はよくありますから」
「確かに…仕方ない。ユキは今回はお留守番だな」
「別に一人じゃないし、いいにゃ。仕方ないにゃ」
うーん。当分もふもふ無しか。仕方ないな。




