座敷わらしの新居探し-九-
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その日の夜。
眠りにつく真司は、またもやあの夢の世界へと来ていた。
「やぁ、また会ったね。真司君」
「えっと……時成さん、でしたよね?」
「正解♪」
笑みを浮かべると時成のことを優しそうな人だと更に思う真司。すると、時成が自分の隣をポンポンと叩き「こっちにおいで」と真司を誘った。
真司は時成の言われるがままに隣へと腰を下ろすと、時成が真司を見て「今日は何をしていたんだい?」と真司に尋ねた。
真司は今日の出来事や幸のことを時成に話す。その間、時成は微笑みながらずっと真司の話を聞いていた。
そして、真司が話し終えると時成は「なるほど。そんなことがあったんだね」と真司に言った。
会うのが二回目なのに、まるでずっと昔から知っているような不思議な気持ちなる真司。だからこそなのか、真司は自分のことや今日あった出来事のことを時成に全て話すことが出来たのだった。
時成は目を閉じながら微笑む。
「君の中で、人生の転機がやってきたんだね」
「人生の転機ですか?」
「うん。生きている中で、必ずそれがやって来る。けど、それが良い方の転機なのか悪い方の転機なのかは誰もわからない」
そう言うと時成はゆっくりと目を開け空を見上げる。真司も時成に釣られて空を見上げると、雲一つない赤い夕焼け空が広がっていた。
真司が何も考えずに空をただただ見上げていると時成がポツリと呟く。
「私にも、それはやってきた」
真司は見上げていた顔を下げ時成の方を向き首を傾げる。
「そうなんですか?」
「うん。私にとってのあの転機は、かけがえのないものに変わったよ」
時成のその言葉に真司は「そうなんだ」と納得すると、真司は前に会った時に言いそびれた話を時成に話した。
「時成さん。以前に裏切りの話をしましたよね?」
「したね」
「僕……人も妖怪もどこまでも信じます。もし裏切られることがあるのなら……きっと、それは僕自身なんです」
真司は俯きながや膝の上にある手をギュッと強く握った。
前を向いていた時成が「え?」と、言いながら真司の方を向く。真司はそんな時成とは目を合わさず、悲痛な表情で話を続けた。
「見えているものを誰かに言っても信じてくれませんでした。本当にそこにいるのに……。でも、一人だけそんな僕のことを信じてくれた子がいたんです」
真司の話を時成は黙ったまま耳を傾け話を聞く。真司は、昔のことを思い出すように時成に話を続けた。
「彼も僕が見ているものは見えません。それでも彼は『凄いね』って言ってくれたんです。けど……ある日、一緒に遊んでいる時に彼が何かに襲われそうになったんです。僕は彼を助けようとしたけど、彼の体を押した先には階段があって……彼は……翔平君はそのまま落ちて……」
昔のことを思い出し、話の途中で黙ってしまう真司。そんな真司の背中を押すように時成は真司の話を促した。
「それで、その子はどうなったんだい?」
「…………頭を強く打った彼は、ずっと眠ったままです。僕自身の周りの噂もあって、両親にもすごく迷惑をかけて……僕……それに耐え切れずに死のうとしたこともあったんです」
真司のその言葉に時成は一瞬驚いた表情を見せると「そうか……」と言った。ただそれだけの言葉だけど、真司は深く聞いてこない時成に少しホッとすると共にまた話を続けた。
「僕が死のうとした時……母が泣きながら止めてくれました。……それでも僕は僕自身が嫌で、ずっと笑うこともせず学校にも行かずに塞ぎ込んでいた時、父の転勤が決まったんです」
「その『てんきん』というのは、一体なんだい?」
生きる時代が違う時成は首を傾げて真司に尋ねた。
「あ、えっと……別の場所で仕事をすることになったっていうことです」
「なるほど。それで、真司君はその子とはどうなったんだい?」
時成の質問に真司はまた顔を俯きか細い声で「…………それからは……連絡を取ってないんです」と、時成に言った。
「翔平君のお母さんからも二度と近づかないでって言われて……。僕は……逃げたんです」
「それが君にとっての『裏切り』なんだね」
真司は黙ったまま小さく頷いた。
「僕は翔平君に謝らず、翔平君に説明もせずにそのまま逃げ出したんです……。僕は僕自身を裏切りました……友達だと思った彼に何も言わずに別れて……すごく弱い人間です……」
「そうか」
時成がそう言うと二人の会話は止まり静寂が訪れた。空は雲一つなく、今日もまん丸な月が煌々としながら自分達を見下ろしていた。
すると、時成がゆっくりと口を開き「私も君のように自分から逃げたことがあるよ」と小さく呟いた。
真司は顔を上げ時成を見る。
「他人から裏切られる事の他に自分自身を裏切る、か……」
時成は月を見上げながらそう呟いた。
真司も時成と一緒に月を見る。すると、また真司の体に強い眠気がやってきた。
「ん……」
眠たくて目を擦る真司に時成は微笑む。
「今日の話はここまでにしようか。君の話を聞いて、私も今更ながらに気付かされたことがあったよ。ありがとう、真司君」
「時成、さん……?」
真司の目が段々と閉じていく中、時成は変わらず微笑みながら話を続けた。
「大丈夫。君なら前に進めるよ。そんな過去がありながらも君は今日、自分のことを友達に打ち明けたんだ。それだけでも君は前に進めている」
真司の目がついに閉じ、体が水の上で浮かんでいるようなフワリとした感覚に陥る。真司の意識が完全に消える前、真司は「前に進めてる……そうだと、いいな……」と心の中で思ったのだった。




