その後の多治速比売命(終)
~その後の多治速比売命~
多治速比売命は、ふわり、と地に足を付け地面に降り立った。
気分は祭り後みたいに高揚だ。しかし、その高揚も自分の家である社に着くと粉砕してしまった。
そう。帰ってきて早々待ち受けていたのは、自分の神使である狛犬の長々としたお説教に、菖蒲の神使である紅と葉の菖蒲の健康状態諸々の菖蒲についての情報だった。
(だっー!! 何故、我の神社にいる者はこうも煩いのだっ!?)
内心そう思いながらも、律儀に正座をして話しを聞く。無論、怒っている神使が怖いとか、怖いとか、怖いとか、そうのじゃない。
「聞いているのですかっ! 弟橘媛様っ!!」
「は、はひっ!!」
(わ、我は悪くないもんっ!)
ちょっぴり、目に涙を溜めながら唇を噛み締める。そして、助け船と言わんばかりに襖を開けて入ってきた神がいた。
「まぁまぁ。そこまでにしておいてもいいのでは?」
しわがれ声に白い髭。頭には烏帽子を着け手には杓を持っていた。
「道真ぇ……」
「道真様! このお方を甘やかしてはいけませんっ!」
「そうです!今日という今日は――」
「――まぁまぁ。そう怒るな。ほれ、神も息抜きは必要だからね」
「しかしっ!」
「この方は、常に息抜きをしています!」
そうだそうだ、と言わんばかりに頷き合う多治速比売命の狛犬達。
道真こと菅原道真は困ったような顔をする。
「いやはや。では、こうしたらどうだい? ここ一ヶ月、社から出ない。もし、出たのならばたとえ神であろうと罰を与える」
「ば、罰、ですか?」
「そうだねぇ〜。君達の雑用も行うとかはどうだい」
「「雑用ですかっ!?」」
驚きの声にシメシメと、細く笑む多治速比売命。見えないところでグッとガッツポーズも密かにしていた。
(これは好機ぞっ! そんな雑用など、神使とて神である我にさせるわけない! そこを突いて道真は……っ……流石じゃ!)
しかし、多治速比売命が思う通り事は進まなかった。
狛犬達は、少し思案したが合意したのだろう。お互いに頷き合った。
「ふむ。多少……いや、かなり心配だが、たまには我らの仕事も」
「そうだな。我らとて弟橘媛様の仕事をしているのだ。たまには、我らの仕事の苦労も知ってもらいたいというものだな」
「「うむ」」
「なっ……!?」
まさかの展開に驚愕の顔になる。道真はニコリと微笑むと、手に持っている杓をポンッと叩いた。
「では、両意見、両者共合意したな」
「まっ、待て待て!! 我は同意しとらんぞ!? この社の主たる我の意見は!?」
「何を言っているのです、弟橘媛様」
「そうです」
狛犬達と道真は意気投合したのか、多治速比売命を見ながら「自業自得です」と、言った。
その言葉と共に多治速比売命は音も無く崩れ落ちたのだった。
「うむ。これで、暫くは大人しいでしょうな」
「流石、道真様です!」
「流石です!」
「ほっ、ほっ、ほっ」
(終)
Next story→第七幕~桜の下で~
【あらすじ】
新年を迎え、新学年を迎える真司。
外は春真っ先で、桜の花びらがヒラヒラと舞っていた。
そんな中、真司に不思議な現象が訪れ、ある女性から頼み事をされる。
その女性は一体誰なのか......?頼みとは何なのか.....?
あかしや橋のあやかし商店街 第七幕も宜しくお願いします。




