おまけの話
表紙撮影後、カメラマンこと屏風覗にOKを貰うと、真司はホッと安堵の息を洩らす。
(ふぅ。今回も無事に終わって良かった)
と思った途端、菖蒲が真司の肩をポンと叩いた。
「お疲れさん」
「あ、はい!菖蒲さんもお疲れさまです!」
「ふふっ。最初は不慣れなもんだったが、お前さんも私も少しは慣れたようじゃの」
「......へ?菖蒲さんもですか?僕はてっきり」
「私だって、こういうものを撮る機会は無いからの。そりゃぁ、緊張はするさね」
肩を少し上げ苦笑いをした菖蒲。
(一番最初も平然とこなしてたから、流石だなぁ〜って思ってたけど......そっか)
自分と同じで毎度緊張しているという真実を知ると、真司は菖蒲に親近感が湧き思わず笑ってしまった。
「はははっ」
「む?笑う事はないじゃろ」
ムスッと拗ねる。
するとーーー
「そうじゃぞ!童子!菖蒲はこう見えて意外とアレなのじゃ!!」
バーーン!!と腰に手を当て、ドヤ顔で現れる多治速比売命。
「......アレとはなんやえ」
「アレはアレじゃ!あーはっはっはっ!」
半目になって多治速比売命を睨むような顔をしたが、そんな自分が馬鹿らしくなったのか呆れた顔をする。そして、その様子を苦笑しながら見守る真司。
多治速比売命は、"天晴れ!!"というような勢いで扇を開いた。
「ふっふっふっ。我もこれで登場じゃ。しかも、表紙はセンターじゃ!見よ!これが、我の実力じゃ!あっはっはっはっ!!」
「何を言うか、馬鹿者が。センターは自分じゃ!と言って、位置を決める前に陣取っていたは、その後もなんテイクしたか覚えとらんのかえ?」
「あっはっはっ!!そんなもの、全く覚えとらんの!」
「............」
「あはは......」
菖蒲は珍しくこめかみの皺を揉む。
「やれやれじゃ......流石に、この私もそろそろ限界というものじゃ」
「ま、まぁまぁ」
「今日という今日は言わせてもらうえ。よいか、多治速比売よ」
「む?なんじゃ、急に。その名で呼ぶとは珍しいの」
「ふんっ!よいか、お主は一回目はカメラに近づきドヤ顔で周りの者も映らなかった。かと思えば、次はピースをするは何処か行くわ......星や白雪が居なかったから良かったものの、お主は周りの者に迷惑をかけ過ぎじゃ!」
「ぐ......うぬぬ」
「あわわわっ」
怒る菖蒲に眉を寄せ不満そうな顔をする神様に真司は焦る。
まるで、怒るお母さんと怒られる娘だ。いや、もしかしたら姉と妹なのかもしれない。
どっちみち、今の雰囲気に真司はアタフタしていた。
(ど、どうしよう?!場の雰囲気が!!な、何とかしないとっ......あぁー、でも、何も浮かばないよ!)
「あ、あああの、落ち着いて下さいっ」
「私は、常に落ち着いておる!」
(いや、どう見ても落ち着いてないですよ?!)
菖蒲は、まだ怒りが治まらないのか小言の如くこれまでの迷惑行為を多治速比売命に言う。
多治速比売命は肩が下がり、顔は次第に俯いていく。
そして、肩が震えるのが見てわかった。
(はっ?!も、もしかして......な、泣いて......?!)
そう思い、多治速比売命を慰めようと肩に触れようとするが.........
「あーはっはっはっ!そうか、そうか!菖蒲はこの我に振り回されていたのだなっ!?」
「............」
「............」
「ふふふっ、実に滑稽じゃ。あの菖蒲がここまで本音を言おうてくれるとはなぁ〜」
「なっ......?!」
含み笑いで菖蒲を見る多治速比売命と大きな瞳を更に見開いて驚く菖蒲。最早、立場は逆転した。
そして、真司はただただ唖然としながら二人の会話を聞いているしかなかった。
「昔は、そういう本音は中々言ってくれんからのぉ。いやはや、菖蒲も成長したものじゃ」
「お、お主は怒られる立場なのじゃぞ?!わかっておるのかえ?!」
「当然じゃ。しかし、楽しかろ?」
「そういう問題ではーーー」
無邪気な子供のように首を傾げる多治速比売命に、遂に菖蒲は根負けしてしまった。
「はぁ......もう、よい」
「ふっふっふっ」
「全く......何故、神というものはこうも......はぁ」
「えーと......」
(とりあえず、問題は消えた感じ......だよね?)
ホッと胸を下ろす真司。
そして、ふと、多治速比売命に質問をしてみた。
「あの、ちょっといいですか?」
「ん?」
「なんえ?」
菖蒲と多治速比売命が同時に真司の方を振り向く。そのシンクロ率に、つい笑いそうになったのは、真司の心の中の秘密である。
「えっと、多治速比売命様は、さっき菖蒲さんに言いましたよね?その名で呼ぶのが珍しいって」
閉じている扇を頬に当て「ふむ...」と考える。
「言うたかもしれんの」
「言ったじゃろう。なんじゃ、遂に認知症かえ?呆けかえ?ふふっ」
「むっ?!今のは、この我でもカッチーンと来たぞ、菖蒲!!」
「なんじゃ、やるのかえ?」
「この神を怒らせるとどうなるか、その身を持って知らせてやろうぞ!」
「受けてやろうじゃないかい!」
「おー、おー、言うたの?!もう、我はどうなっても知らんぞ!」
「あーもうっ!いい加減にしてください!二人とも喧嘩は止めて下さいっ!いいですね?!」
「............」
「............」
「「......はい」」
真司が怒るなど想像がつかなかった二人は真司の大声に唖然とし不思議と真司には逆らえなくなり、二人はすんなりと返事をしたのだった。
多治速比売命は扇で頭を掻く。なんとも残念な女神様だろう。
誰もがそう思う。しかし、そこは敢えて口に出さない。
真司は苦笑し、菖蒲は本日何度目かわからないぐらいの溜め息をつく。
「我は、確かに周りからは多治速比売命と名があるが、それは我の二つ名みたいな者じゃ」
「二つ名ですか?」
「うむ。又は比売神とも呼ばれたりもするが、本当の名は弟橘姫じゃ」
「あぁ、だから、神様の着物にも扇にも橘の紋が入っているんですね」
それを聞いた菖蒲と多治速比売命こと弟橘姫は感心するように同時に頷いた。
「ほぉ〜、真司や。よく、これが橘の紋とわかったのぉ」
「これ扱いとは、相変わらず可愛気無いの。......まぁ、それは置いといて、そこは我も同意見じゃ」
「あぁ、それは、父がそういうの好きなので。歴史っていうのかな?家柄に寄って、同じ家紋でも違うし歴史も違うとかなんとか......僕にも詳しくはわからないですが」
「ふむ。お前さんの父は、中々の才を持っておるの」
「才っていうほどじゃないですよ。ただの趣味ですし.....あはは」
「まぁ、我的には多治速比売命と言われるよりかは、弟橘と呼ばれる方がよい。何せ、長ったらしいからの」
「真名も長いと思うがな......」
ボソリと言った菖蒲に、細めになって睨む弟橘姫。そして、呆れたように溜め息をついた。
「やれやれ。昔は多少は素直じゃったのにのぉ」
「ふん。大きなお世話じゃ」
「全く、誰があやかしの町作りを手伝ったと思っておるのやら......」
「............」
腕を組んで眉に皺を寄せ、不満そうな顔をする菖蒲に、弟橘姫はニヤニヤと笑っていた。
「二人共、喧嘩はーーー」
「「ーーーはい、しません」」
「......はぁ」
今度は真司が溜め息をついた。
そして、話を戻す為、再び弟橘姫の顔を見る。
「そういえば、多治速比売命様......あ、弟橘姫様はどういう神様なんですか?」
「姫を付けんでもよい。童子も弟橘と呼ぶがよい」
「あ、はい。わかりました」
「うむ!で、だ。質問の答えじゃが...............秘密じゃ!!」
「えぇー......」
「そう言うと思っとったわ......はぁ」
「ふっふっふっ。我のことを知りたければ、本編を進み読むかWikipediaで調べるとよいわっ!お勧めはWikipediaじゃ!一発じゃ!あーはっはっはっ!!」
「......え。神様ってWikipedia知っているんですか?というか、本編だけを勧めるんじゃないんですね......」
苦笑いしている真司の肩を叩く菖蒲の顔は、呆れ半分悟り半分の何とも微妙な顔をしていた。
「真司。諦めんしゃい。こやつは昔からこうじゃからな......」
「ですね......」
「「はぁ......」」
二人同時に溜め息をつく。
弟橘姫は、そんな二人の心情など知らないというか、興味が無いのか盛大に笑っていた。
「あーっはっはっは!今後も我は登場するぞ?!乞うご期待じゃ!!」
(終)
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