破天荒な女神現る-十三‐(終)
ズズズーと、再びお茶を飲む菖蒲。
菖蒲は、いつも通りの表情で"消える"ということを口にした。
消える=死を意味するのに、神様といい菖蒲といい、この者達は"死"を恐れていないのだろうかと真司は内心思う。話はまだ続き、今度は白雪が"気"について説明してくれた。
「私達は陰の気、神様達は陽の気を纏っています。陽の気を持つ者は、陰の気が住まう場所に長く居れず、その逆もまた然りです」
「それじゃぁ、人間はどうなるんですか? 現に、僕自身は何も感じませんが……」
真司の言葉に菖蒲が「ふむ」と小さく頷いた。
「人間は両方の気を持っておるからの。しかし、どちらかの気が濃い場所に行くと……」
「い、行くと?」
「戻っては来れなくなります」
菖蒲に恐る恐る聞くと、白雪が変わりに答えた。
その言葉に、真司はゴクリの喉を鳴らす。
「陰の気が濃い場所じゃと、死ぬな」
「死!?」
「陰の気が一番濃い場所は、黄泉の国ですね」
「黄泉の国、ですか」
(それってつまり……)
『黄泉の国』という言葉に真司は予想できた。なにせ、それは小説にも載っている言葉だから。
真司が考えていたことは、どうやら正解らしい。菖蒲は黄泉の国のことを別の言葉で言い換えた。
「黄泉の国とは、つまり死者が集う国じゃ」
(やっぱり……)
「黄泉の国は、またの名を常世とも言われるの。そして、ここは隠れた世界――つまり、隠世じゃ。人間は、これらを一纏めで〝常世”と言う者もいる」
菖蒲の言葉に白雪が話を続ける。
「そして、逆に陽の気が濃いとそこに依存してしまい、出られなくなりますね」
「うむ。陽の気じゃと、神々が住まう高天原が良い例えじゃの。人で言うなら天の国、極楽浄土に近いかもしれぬなぁ。幸せな夢のような場所じゃからな」
「そう言った場所に居続けると、誰もがその場を離れ難くなるものです。現実は辛いですから」
菖蒲と白雪が交互に話をする。真司はその話に耳を傾けると又もやデジャヴを感じた。
そう、この話しの流れは、多治速比売命から聞いた話だったのだ。真司は、やはり、その言葉にぞくりとした。
「神様からも話しは聞きましたが、その……やっぱり、麻薬……みたいですね。あ、勿論、一緒にしちゃ駄目なんですけど……幸せな夢を見るとか依存するとかと聞くと……」
その返答に白雪も菖蒲も目をぱちくりとさせクスクスと笑う。
「ふふっ」
「確かに、その通りやねぇ」
「でも、陰と陽でそんなに変わるものなんですね」
「まぁ、な」
――ズズズー。
菖蒲の茶を飲む音が居間に響く。白雪は苦笑すると「話しが何だか逸れた感じがしますが、つまりは、その陽の気が真司さんに少しだけ付いているということです」と、真司に言った。
「ねぇーねぇー、お兄ちゃん。神様とどんなお話しをしたのー?」
「え?」
ドーナツを食べ満足したのか、白雪の膝の上にいそいそと乗りながら言うお雪。
星も、真司の隣にソッと来て座ると、くいっと服を引っ張った。
「僕も、気になる……」
「えーとぉ……」
(ど、どうしよう。菖蒲さんの過去の事を聞いたなんて、言えるわけないし……)
「う、うーん……駅付近にあるお店を案内した、かな? あはは……」
嘘は言っていない。そのおかげで、財布の中は可哀想になったのだから。と
、真司は心の中で思った。
しかし、その返答にお雪は残念そうな顔をした。
「えー、それだけぇ?」
「……少し、意外」
「え、そうなの?」
まさか、星までもそう言うとは思わなくて今度は真司が驚く。
すると、白雪か頬に手を当て「そうですねぇ。確かに、あの神様なら意外ですねぇ」と言った。
何がどう意外なのか全然わからなかったが、真司はあの破天荒な神様にあっちこっち連れ回された事を思い出し苦笑する。
「あ、あはは……」
「どうせ、色々振り回されたんじゃないかえ?」
「そうなのー?」
「……なの?」
「そうなのですか?」
菖蒲を含めた四人に質問をされる真司。
「は、はい、まぁ。かなり……」
「ほれみぃ」
再び、ズズズーと茶を飲む菖蒲の顔は少しドヤ顔だ。
そして、今度の返答は正解だったらしい。
お雪と星は満足そうな顔をして頷く。因みに白雪は、相変わらず頬に手を当てほのぼのと微笑んでいた。
「うん! 神様らしいー♪」
「……だね」
「そうですねぇ、ふふふ」
(あ、そうなんだ)
どうやら、あれが通常運転なのだとわかると、神社にいる他の神様達に同情してしまった。
「……あの神様、凄く元気」
「げんきーー♪」
「お雪もいつも元気やの。……あ奴は元気というより鬱陶しいがな。で、真司や」
「はい?」
「神との逢瀬は楽しかったかえ?」
ニヤリと含みのある笑みで笑う菖蒲。
お茶を一口飲んでいた真司は、口から吹き出しそうになったのを無理矢理飲み込む。しかし、それが器官に入ったのか咳き込んでしまった。
「ごほっごほっ……ごほっ!」
「おやおや、大丈夫かえ?」
「あらあらぁ〜、ふふふ」
真司は腕で口元を拭い慌てて「だっ、大丈夫、です……」と言う。
「というか! 逢瀬とかそういうのじゃありませんっ!! 突然、学校に現れて、最初は妖怪かと思いましたしっ! ……いや、あれは髪の長いお化けでしたっ!」
貞〇を思い出したのか、真司はブルりと肩を震わせる。神のことをお化け呼ばわりしたのがツボったのか、菖蒲は珍しく盛大に笑った。
「あはははっ! あ奴をお化けとっ!? ははははっ!」
「菖蒲さん……珍しい……」
「そうねぇ。こんなに笑っているのは初めてではないかしら?」
「あははー♪」
口を開け唖然としながら菖蒲の笑う姿を見る真司。菖蒲は目に涙を溜めながらまだ笑っていた。
そして、涙を指で拭うと落ち着く為に深呼吸をした。
「ふー……ふふふっ……これは、あ奴にも教えてやらんとなぁ〜、ふふっ」
「そ、そんなに面白かったですか……?」
「まぁな。神をお化け呼ばわりする者など、そうそうおらん。私が知る限りじゃ、お前さんが初めてじゃ」
「そ、そうですか」
菖蒲の新たな一面を知り、少しだけ驚きつつも嬉しい気持ちになった。それを隠す為に、お茶をグイッと一気飲みをする。
(菖蒲さんがあんなに笑った姿を初めて見た。いつもは白雪さんみたいに落ち着いたような笑い方なのに……菖蒲さんも、あんな風に笑うんだ)
菖蒲の過去よりも、今はまだ、こうやってまだ知らない菖蒲の表情や感情を知りたい。見たい。
真司はそう思って、豆腐ドーナツに一口齧り付いた。
ドーナツはシットリとして、程よい甘さが口に広がる。それはまるで、今の真司の気持ちみたいだった。
(終)
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