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27 城塞都市にて②

 その後ライラたちは責任者の案内のもと、城塞都市を歩いた。


(王都より小さめだけれど、お店は充実しているし活気もある。それに、警備もしっかりしているみたい……)


 道行く人も多くて、オルーヴァのすぐ近くという不安要素さえなければ、住み心地のよさそうな町である。

 ライラたちを見る通行人の目もあり――


(……うーん……なんだかユリウス様、すごく注目されている?)


 ライラの隣を颯爽と歩くユリウスはやはり、人目を惹く。だが、ただ単に大魔道士として注目されているだけではなさそうだ。


 すれ違った若い女性たちが、ユリウスを見てきゃあきゃあはしゃいでいる。まだ十代前半くらいだろう売り子らしき少女はぽうっと頬を染めているし、既婚者らしい女性たちもユリウスをしげしげと見ていた。


 ユリウスの容姿は、非常に見栄えする。

 それこそ、すれ違った女性たちのほとんどが思わず振り返り、見とれるくらい。


(も、もしかして私が思っていた以上にユリウス様は格好よくて、モテるの……?)


 ライラと暮らすようになって、数ヶ月。

 もうがりがりに痩せていた頃の面影は微塵もなく、そこにいるのは細身の体躯を持つ凛とした貴公子だった。


(……私、隣に立っていて浮いていないかな)


 にわかに不安になってくる。

 浮いているくらいならまだいいが、ユリウスの品格を落とすような存在になっていないだろうか。


 そう思うと胸の奥がぞわぞわしてきて、ライラはきゅっとユリウスのジャケットの裾を掴んだ。

 おそらく真後ろにいるヴェルネリとヘルカくらいにしか見えないだろうと思っての行動だったが、引っ張られたジャケットをさっと見たユリウスは左手を持ち上げ、ジャケットを掴んでいたライラの手をぎゅっと握った。


(えっ!?)


「ユリウス様……」

「手、繋いで歩こう」


 顔を覗き込まれ、それまではきりりとしていたかんばせをふわりと緩めるユリウスに提案されれば、ライラは真っ赤になって頷くしかできなかった。


 ユリウスが隣にいる女性と手を繋いでいるのは周りにも見えていたようで、あちこちから黄色い悲鳴や楽しそうに笑う声が聞こえてくる。


(ちょっと、恥ずかしい。でも……安心できる)


 何よりも、ライラが弱気になって甘えるとすぐに気付き、ライラが一番喜ぶ形で応えてくれたことが、嬉しい。


 秋の風吹く町並みは少し肌寒いが、しっかり握った手はとても温かかった。











 その後ユリウスは魔道士育成機関に赴き、ライラもそれに同行した。

 さすが魔道士用の学舎だけあり、ライラが王都で通っていた学院とは趣が違う。広い校庭には魔法を撃つ練習ができるような場所があり、模擬訓練してもいいような広場もあった。


 魔道士ではないライラは子どもたちの放つ魔法に被弾してはならないので、少し離れたところでヘルカと一緒にユリウスの様子を見守ることにした。のだが――


「ぎゃっ!」

「うん、よく頑張ったと思うよ。でも安定していないから、簡単に打ち消されてしまう。……はい、次」

「い、行きます! ……うっ、わぁっ!?」

「うーん……能力は高いけれど、不安で不安で仕方ないって気持ちがこっちに伝わってしまう。弱気になると、相手に隙を衝かれる。もっと気持ちを落ち着けるように。……次」


 訓練中らしい十人ほどの子どもたちがユリウスに魔法を放ち、あっさり吹っ飛ばされる。その都度ユリウスは一言ずつアドバイスをし、さまざまな魔法を撃たせていた。


 途中からはユリウス一人対子ども五人という四方を囲まれた状態になったが、ユリウスが的確に魔法の壁を作って攻撃を防ぐと、火花や稲妻が飛び散り、ライラはその光景から目が離せなかった。


(す、すごい……これが、魔法の実技訓練……)


「なんだかもう……別次元の世界を見ているみたい」


 ライラが呟くと、隣に座っていたヘルカがくすくす笑った。


「ライラ様には、そう見えるかもしれませんね。ユリウス様は、子ども魔道士の育成にとても関心を持たれているのですよ」

「子どもが好きってことなのかな?」

「どちらかというと、優秀な後継者を育てたいという気持ちがおありだからでしょう。子ども好きということは、特には聞いておりませんので」

「そうなのね」

「でもいずれライラ様との間にお子様が生まれましたらきっと、とても可愛がられると思いますよ」

「ひっ……!?」


 のんびり雑談をしていたというのにいきなりどきっとするようなことを言われ、ライラは子どもたちに囲まれるユリウスを見――さっと目を逸らしてしまった。


(そ、そりゃあ確かに私はユリウス様の婚約者だから、早ければ来年の夏には結婚するし、子どもだって……う、うん。そ、そうだよね!)


 かあっと赤面するライラを見ておかしそうに笑い、ヘルカは長い髪をさらっと掻き上げてユリウスに視線を向けた。


「……あれほどまで生き生きとされているユリウス様のお姿は、ライラ様がいらっしゃらなかったら一生拝見できなかったかもしれません」

「……私みたいな体質は、稀には生まれるんだよね?」


 確かヴェルネリが、ライラの体質はあまり発見例がない珍しいものだと言っていた。

 とはいえ、しらみつぶしに探せば同じような体質持ちが見つかるかもしれない。


「そうですね。ただライラ様もそうだったように、魔力吸収体質は普通の測定器では分かりません。よって、発見例がないだけで思ったよりも多くの人が同じ体質を持っている可能性も十分にあります」

「……そうだよね」


 ――もしライラ以外の女性が、この体質持ちだったら。

 あの夜会で同じ体質持ちの女性がおり、同じようにユリウスに触れていたら、選ばれたのはライラではなくてその女性だったのかも――


(……ううん、違う。ユリウス様、言っていたもの)


 ユリウスはライラに、三度目惚れしたと言っていた。二度目までがあったから、ライラに触れて体質に気付いた際、メイドとして雇用とするとかではなく、求婚という選択をしたのだと。


 自信を持てばいいのだ。


 今、子どもたちと一緒に活動しているユリウスは、婚約者がライラだからこそ存在する。

 ライラが選ばれた価値は、確かにあるのだと。

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― 新着の感想 ―
[一言] ところどころでライラの初心なところが見られますね。いいぞもっとやれって気持ちで呼んでます。
2020/06/19 20:23 退会済み
管理
[良い点] ユリウス様がどんなに素敵になっていっても、卑屈にならないライラが素敵です。
[一言] そうそう。ライラは自信を持っていいんだぞー。 イケメンの横は私のモンだぐらいの気持ちで(笑)
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