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三週間引きこもっていた。
メールが届いた。
狐からのメールだ。
お呼び出しを受けた僕は、待ち合わせ場所に三十分も早く着いてしまった。落ち着かないからあたりをそぞろ歩き回る。久しぶりに外出した。太陽が眩しい。
メールには話がしたいと書かれていた。
それを見て胸が高鳴らないといえば嘘になるけれど、でも同時に、胃がむずむずして、心臓を気持ち悪い冷たい水に舐められているような、不安に僕は襲われていた。
なぜ稲荷木燈花は僕に化けていたのか。
なぜ稲荷木燈花は僕に化けていることを僕に露呈させたのか。
稲荷木燈花は僕の反応を試していたのではないか。
稲荷木燈花は僕の反応を見て愉しんでいたのではないか。
稲荷木燈花は僕を馬鹿にしていただけだったのではないか。
そして僕が引きこもってしまったら稲荷木燈火から連絡が来なくなった。
ほら、やっぱり稲荷木燈花は僕の反応を見たらもう僕には飽きてしまったのではないか。
やっぱり面白半分でドッペルゲンガーごっこをしたのではないか。
もう僕には興味がなくなったのではないか。
そんなことばかり考えてのたうち回っていた僕にとっては、少なくとも僕と接触を図ろうとするメールは救いでもあったし、地獄でもあった。
会って話してしまえば、答えが決まってしまうから。
いやもちろん、そんなのひどい被害妄想だとは僕だって思っている。普通に考えれば、稲荷木燈花はちょっと、いや、著しく空気が読めず、著しく思いが重い女の子で、僕の興味をひこうとして僕に化けたんだと、客観的にはそうであろうと僕だって思う。いや……でも……。案外、そう思うほうが自意識過剰なんじゃないだろうか。普通に、そんな都合のいい妄想みたいな話があるだろうか、やっぱり、燈花は別に僕に興味なんか、
堂々巡り。僕は特に意味もなく、東京ドームの周りを一周した。堂々巡り。ドームドーム巡りだった。ドムドムバーガーって食べたこと無いんだよなと僕は思った。うちの近くにあるらしいけど、駅と反対方向だから行かないんだよな。
無理やりどうでもいい方向に思考をねじ曲げようとしたらすぐ止まってしまった。
なぜ稲荷木燈花は僕に化けていたのか。
なぜ稲荷木燈花は僕に化けていることを僕に露呈させたのか。
稲荷木燈花は僕の反応を試していたのではないか。
稲荷木燈花は僕の反応を見て愉しんでいたのではないか。
稲荷木燈花は僕を馬鹿にしていただけだったのではないか。
そして僕が引きこもってしまったら稲荷木燈火から連絡が
「香織」
誰にも化けてない、稲荷木燈花が目の前に立っていた。
燈花が首を傾げる。なんでここで会ったんだろう、という顔をしている。
普通に後楽園の駅で集合にしたのに、なんだって東京ドームの裏手に居るのかという話である。二人共、早く着きすぎて無駄に歩きまわっていたのが完全にバレバレで、笑ってしまう。
「集合場所、わかりにくくてすみません」
燈花が涼しい顔で言った。
「お茶でも飲みながら話せますか」




