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Cheeze Scramble  作者: 神山 備
魔法使いの妻編
51/61

下準備

 シュバルの自宅に着いてからのあたしはさながら映画監督。夜バッテリーを充電して、昼撮りまくった。

 なんせ今まで見たこともないビデオカメラを前にしたここの人の反応が、それぞれ違ごてて飽きへん。

「音も入るからね」

って言うた途端、固まっていつもの颯爽さはどこへやら、機械仕掛けに化けてもた侍女頭のクララさん。

 それに引き替え、あたしらがここに家を構えたのを機にロッシュ家に雇われた若いイルマちゃんなんかは、興味津々で覗き込むから使い方をレクチャーしたら、あっという間に覚えてもうて、おかげであたしを入れた映像を撮ることができたり。まるでカメラを回してることなんかアウトオブ眼中でいつも通り仕事する執事のアシュレイさん。

「さすがプロ」

て言うたら、

「当たり前のことを当たり前にしているだけでございます、若奥様」

と返ってきた時には、こいつ実はかなり腹黒いなと思たけど。

 

 ほん三日後、

「頂いてきましたよ」

馬番のサムソンさんがあたしが頼んだ大量の天ぷら(正確に言うたらフリッターかな)廃油を市場からもうてきてくれたんで、あたしは慌てて取りに行った。

「でも、こんな物、一体何に使うんですか?」

サムソンさんは首を傾げながらあたしにそう聞く。

「ああ、これ? あの電撃マシンの餌」

「へぇ、アレってこんなの食べる……って、チーズ様、アレって生きてるんですか?」

ほしたら、サムソンさんは目をまん丸にして驚いた。生きてるて……サムソンさん、天然。

「生きてるわけないじゃん。燃料だよ、燃料。ちょっとアレに合わせて魔法で手を加えなきゃなんないんだけどね。基本これだよ」

そう、石油の元は堆積した動植物。廃油の方がいろんなもんが混ざってる分自然に近い。さら(新しい)より古がええなんて、エコ。嬉しなってくるやん。環境にもお財布にも優しいんやもんな。

 あたしがニヤニヤしながら油の樽を見ていると、そこにデニスさんがやってきた。

「油、きましたか」

「ええ」

「ミセスロッシュ、今から燃料を作るんですか?」

あたしが頷くとデニスさんはそう聞いてきたんで、

「いいえ、ビデオの方も粗方撮れましたし、もしすぐに車をこっちに運んで来れたとしても、どうせ最初はガソリン満タンにしてきますから、最近のコンパクトカーならそれでガッシュタルトを往復できるはずです。

それに、どっちみち一個ずつの魔法は別の日にするつもりですから」

て答える。

「ほぉ、別の日ですか」

デニスさんは意外やって顔をした。セルディオさんはいつも一気に作ってんのかもしれん。けどな……

「この作り方って、ガソリンのできるプロセスに則っているからか、やたら高位の魔法ばっかでしょ。それに見合う魔力があったって、体力保たないです。ヨシヒサ、よく一日で回復しましたよね。ガザの実の効果もあったでしょうけど」

中味だけ固定して石化の上時空魔法なんて、魔力どんだけ消費するか見当つかん。

 ちなみにガザの実というのは、魔力回復に効果がある実、ロープレで言うたらTP回復アイテム。ただ、その効果は絶大やねんけど誰も率先して食べへん。何でかと言うと、この実真っ赤なクセにめっちゃ酸っぱいねん。酸っぱすぎて口が曲がったまま固まるほど。魔力は回復しても体力が取られてまいそうになるやっかいな実なんや。せやから、よっぽど切羽詰まってる時しか誰も使いたないやん。

「それに、元々長い時間を縮めるんですから、一個ずつをそんなに急いでやる必要はないと思うんです」

石化も後の時空操作も結局はものごっつい長い時間を縮めるためのもの、それぞれのプロセスを分けても全然無問題ムオマンタイ。むしろ、プロセス毎に分けた方が魔力が温存できて合理的。あたしがそう言うと、

「確かに言われてみればそうですな。帰ったらセルディオにも言ってやりましょう。あやつもヨシヒサの真似で作っておるだけなので、いまいち理を解っておらんですからな」

デニスさんもそう言うて頷いた。セルディオさんはヨシヒサのドッペルゲンガーやけど、それはやっぱし別人やから地球の教育は受けてへんし、解ったようで解ってないのかも。まぁ、フレンも言うてたけど、日本の教育水準てオラトリオとは雲泥やもんなぁ。


 そんなこんなで一週間後、あたしとフレンは、完成したビデオを持ってお姉んちにトリップした。

すいません、今回中に晴海の家にたどり着く予定だったのに、下準備だけで終わってしまいました。


けど、ロッシュ家使用人たちの反応が面白くて面白くて……


次回、舅と婿の攻防戦……まで絶対に行きたい! 行かせてくれ、晴海(頼むの、ソコ?)

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