VSお姉
神部姉妹の攻防戦、しかも語りが千鶴。会話も地の文も全部大阪弁一色で読みにくいかもしれませんが、お付き合いください。
「ちる! ちるとちゃうのん? あんた何でこんなとこにおんのん。幽霊……ちゃうよな」
お姉は子供の時からの懐かしい呼び方であたしを呼んだ。けど、
「あ、かんちゃんのお姉さんですか? 初めまして、あたしは千鶴さんのツレやったマナミ・ノエ・レ・ロッシュと言います。
千鶴さんが亡くなったんは、人づてに聞いて知ってたんですけど、あたし今、『イギリス』に住んでるもんで、お参りに来んのがエライ遅れてしまいました」
あたしは『お姉』と呼びたいのをぐっと堪えてそう挨拶した。あたしはもうこの日本では死んどんやから。
生きててもパラレルワールドなんておいそれと行かれへんとこにおる以上、死んどんのと一緒やから。ゴメンお姉、あたしフレンの方採るわな。
それを聞いてお姉は一旦
「はぁ、それはどうも」
てあたしに頭下げたけど、ちょっと首捻ったかと思うと、
「あんたやっぱりちるやろ! 野江愛実って、それあんたが一回だけエロ書いたときのペンネームやないか。何で、うちにまで正体隠そうとすんや。あ、うしろのそいつに脅かされとんか」
とあっさり正体を見破って、フレンを睨む。しもた、お姉はあたしの小説の一番のハードユーザーやったんやった。もしあたしの小説のキャラの名前で誤魔化したとしても、お姉やったら『〇〇(作品名)の脇キャラやろ』て言うかもしれん。そう言うても、今まで何かに使こてない名前なんかぱっと思いつかんもん。お姉にはバラさなしゃーないか。
「バレたらしゃーないわ。お姉、久しぶり」
「何が久しぶりや。うちらがどんだけ心配したと思てんのん」
観念して言うたあたしに、お姉はそう言うて鼻息を荒うする。
「それはホンマにゴメンて。せやけど、あん時は連絡の取りようがなかったんや」
せやからあたしは、頭の前で合掌した手を振ってそう返した。
「怪我とかしとったとか? ほんなら動けんやろし、記憶喪失とかベタなこと言うんちゃうやろな」
ま、普通考えるとしたらソコしかないやろな。経験してへんかったらあたしでもそう考える。
「えーっと……ああ、説明しにくいなぁ、説明しても信じてくれへんやろから」
どうやって説明しょう。頭抱えてるあたしに、
「そんなもん、言うてみな判らんやろな」
お姉はそう言う。
「ほな言うけど、途中で茶々入れなや……あんな、あたしあの爆発で異世界に行ってもうてん。そこで拾てくれたんが、このフレン」
と説明してから、
【フレン、これがあたしの姉の晴海・中川】
とフレンの方向いてオラトリオ語でお姉を紹介する。
【義姉上、お初にお目にかかります。フレン・ギィ・ラ・ロッシュと申します】
そしたら、フレンは胸の前に手を置いて、優雅にお辞儀した。その仕草にお姉はちょっとビックリした顔はしたけど、
「アホらし、ウソつくんやったらもうちょっとマシなウソつきぃや」
て言いながらヒラヒラと手を振った。
やっぱし……
「ほら、信じひん。せやから言うのイヤやったんや」
あたしは、そう言うてお姉を睨み返したった。ほんだら、
「そやかてあんたら英語しゃべってるやん」
てお姉から返ってくる。せやから意地んなって、
「ちゃうもん、似てるけどコレ、オラトリオ語やもん。
かなり英語に近いんやけど、微妙にちがうねんから。
行った最初の頃は、電子辞書は一緒に向こう持って行ってたから引いてみるんやけど、分からへんこともようけあったんや。結局習うより慣れろを実践してこの三年半きたんやで」
てあたしは力説したけど、
「ふーん」
てお姉の反応は暗い。
「ま、信じても信じんでも、事実に変わりないからな。
ほんで、フレンとフレンの家族はどっこも行くとこのなかったあたしを、家族の一員みたいに可愛がってくれて。あたしら一年半ほど前に結婚してん」
どうせ、この話も絶対にツッコミ入るのは判ってるから、あたしは残りの話を一気にしてまう。
「結婚? 結婚てちょっと待ちぃや。親にも連絡せんで結婚はないやろ」
案の定お姉は、結婚という言葉に眉毛を大きくつり上げて、
【ちょっとあんた、他人様の大事な娘に手を出して、シカトって、どういう事よ】
とフレンに詰め寄る。胸座も掴みたかったみたいやけど、それはあたしが間に入って止めた。
【いや、それに関してはどれほど詫びれば良いのか。俺がもっと早くに戻れるよう、計らうべきだったと反省している】
ほしたら、フレンは恐縮してで小そうなってそう答えた。
「せやから、やっと戻れたんやて!」
もう、メンドいなぁ。どない言うたらええんや。他のことはともかく、異世界トリップの事実だけは理解してもらわんと前に進めへん。
「こっちに戻ってくる魔法が分からんかってんもん、しゃーないやん」
せや、魔法があった! 何か魔法出してみせたら、さすがにお姉かて納得するしかないやろ。あたしは、
「魔法て、なに寝言言うとんねん」
と言うお姉を引っ張って駐車場まで行き、
「お姉の車て今でもコレやよな」
と、オレンジ色のラテを指さして、
「当たり前やん、そんなしょっちゅう変えてられるかいな」
と言うのを聞いた後、あたしはすっと胸の前に手を出すと、
[汝、その重さを羽の如くし、我の手の動きに従え Move!]
と叫んでお姉の車を持ち上げた。
お姉の車が「ラテ」だけに使う魔法はもちろん「Move」(なんのこっちゃ)
ホント、女3人寄ったら姦しいとは言いますが、こいつらは2人でもこのやかましさ。しかも延々とマシンガントークを続けるので、何遍「じゃかぁしい」と怒鳴ったことか……
お姉の車は果たしてどうなる? ということで、次回。
※最近、お姉というと性別が……なのですが、晴海は生物学上も女性ですので、お間違いなく。




