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Cheeze Scramble  作者: 神山 備
魔法使いの妻編
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辿り着いたのは?

「実はな、ニホンには一度早々に行かねばならぬと思っていたところだったのだ」

 続けてそう言うたフレンに、あたしが首を傾げると、

「お前がしょっちゅう持ち歩いて磨いていた石版があったろう。お前がこちらに来てからもアレだけはこちらで反応が感じられただがな、それがここ数日どんどんと弱まってきているんだ」

しょっちゅう持ち歩いてるんであっちに置いてきたもんっちゅうたら……スマフォ。にしても、フレンにしたら、電子端末は全部石版やねんな(苦笑)

 それは置いとくとして、スマフォのGPS機能がここまで届いてたなんて驚きや。アレ、こっちに来る直前に機種変したやつやったけど、そんでもあたしがこっちに来てから三年半も経つんやもん。細目に充電してもうてたとしても、そろそろ充電池も寿命のはずや。古なった充電池ってあっと言う間になくなってまうもんなぁ。

 ホンマギリギリのとこやったんや。あと何日かデニスさんが来んのが遅かったらと思たらあたしは寒気がした。

 呪文強化の魔法陣のある部屋にきたあたしは、その真ん中に立って、予めフレン教えてもろた詠唱文言をフレンと一緒に唱えた。それは、[位置を教えてくれてる機械に向かって飛べ]という拍子抜けするほどシンプルなものやった。けど、もちろんそれは魔道語やし、フレンがスマフォの電波に気づいてなかったらどこに飛んでええんかもわからんかったんやから、やっぱしあたし一人では還られへんかったやろなと思た。

 ぐにゃんと目の前の景色が歪んで闇とに混ざって溶けていく。次元をすり抜けるためなんか、それに併せて体が作り替えられていくみたいで、身の置き所がないし、一気に疲れる感じがする。セルディオさんって、こんな気色悪いことようしょっちゅうやっとるんやろ? ある意味感動するわ。


「ここは、どこだ?」

 ほんで、あたしらがたどり着いたのは、人っ子一人おらん、

「お墓……」

「墓? ここは墓所か。そう言われればそこここに花があるな。しかし、ニホンという国はあの建物と言い、皆塔のように四角く細長く建てるのだな」

あたしのつぶやきににフレンが辺りを見回してそう言う。

「うん、ここ神部家のお墓だよ」

そう、出てきたんはばーちゃんの代に住んどった京都にある神部家の菩提寺。しかもウチのお墓の真ん前やった。スマフォのGPSがここ数日で弱ったことと、ここに出てきたってこと。それが意味すんのは……

 けど、あたしがそれを確かめようと骨入れに手を伸ばした時、あたしらに近づいてくる人がおったんで、あたしは慌ててその手を引っ込めた。

【お厨主さん……】

それはこの寺の住職さんやった。

【神部さんとこの千鶴さんにお参りどっか。ご苦労さんどす】

お厨主さんはそう言うてあたしに頭を下げる。

ホンマはあたしがその本人やねんけど。今それをこのあたしのじーちゃんほどのお厨主さんに言うても理解してもらわれへんやろから黙って頷いとく。

 ほしたら、こっちが聞いてへんのに、お厨主さんの方からあん時の経緯を話してくれた。

【ホンマ、大変な事故どしたなぁ。

行ってたカラオケボックスの従業員がガス漏れてんのにも気付かんと煙草吸うたのが爆発して、吸うたその本人さんはもちろん真上におった千鶴さんも亡くなってしもたんどしたな。

『携帯は残ってんのに、骨も残らんほど黒こげになるなんてありえへん』て、親御さんは頑として、千鶴さんが死んだことを認めはらへんどしたんやけど……】

確かに生きてここにおんねんから、お父やお母が正しいねんけど、ホントやったら死んどるかもしれんねんもんなぁ。それでも、やっぱり認めへんのやろなと思たら、鼻の奥がつんと痛となった。あかん、泣いたらお厨主さんに変やて思われてまう。

【今も、おと……おじさん、おばさんは認めてはらへんのですか?】

せやからあたしはそう言うた。そしたらお厨主さんは静かに首を横に振った。

【長いこと認めてはらへんどしたんやけどな、それがおとつい急に『ええ加減ふんぎりつけなあかんやろ』て言いはって、最後に残された携帯持ってきはったんで、お勤めさしてもうてここに納めたんどす】

そうか、良かった。それに、やっぱりスマフォ、ここに来てたんや。

 三年半も経った今更着信もメールもあらへんやろうけど、充電を満タンにしてこっちに持ってきたとしても、それが持つんはせいぜい丸四日。ホンマギリやった。そう思たらあたしはその場で座り込みそうになった。それに気づいたフレンが慌ててあたしの肩を支えてくれた。せやから顔を上げてフレンを見ると、言葉解らんから、泣きそうな顔してるあたしを心配そうに見てた。

【大丈夫どっか? そう言うたら顔色悪おすなぁ。何やったらちょっとそこで休んでいきはったら】

お厨主さんにもそう言われたけど、

【いえ、大丈夫です。

ほな、そろそろ行きますわ】

あたしはそう言うて、後ろ髪引かれるようにお厨主さんを見るフレンの服の裾を引っ張って寺の外に向こて歩き出した。

「解ったのか、界渡りの真相は」

歩きながらそう聞くフレンに、

「うん……神官(あっちにお坊さんに対応する言葉もあるんやろけど、あたしは知らんから)さんが知ってた。帰ったらちゃんと話すよ」

あたしが言葉少なにそう答えると、フレンはそれ以上聞かんかった。


 けど、とりあえずお厨主さんの目から見えへんとこへ……と思て寺の入り口を目指したあたしの足が止まった。それは、ここで今会うと思てへんかった人がそこにおったから。

「お姉……」

それは、あたしの四つ年上の姉、中川晴海やった。

※お厨主さんというのは大阪弁(京都弁)でお坊さんの意。でも、今の若い子は使わないかもしれません。千鶴はばーちゃん子だったという設定です。


さて、いきなりの千鶴姉登場です。


千鶴の姉ですからね、どうなりますことやら……

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