界渡りの真実(後編)
フレンはあたしに隠してたことがなくなった途端、憑き物が落ちたみたいに優しい顔んなって、
「チーズ、一度日本に帰れ。いや、一緒に行こう」
って言うた。
「一体、何の風の吹き回し?」
あたしが思わずそう言うたんも、もっともやと思えへん?
「俺は今まで自分のことばかりを考えていた。お前にも家族がいる。そんな当たり前のことがすっかり抜け落ちていた。
お前の親御さんは急に娘が消えて、さぞかし悲しい思いをされただろう。行って謝罪せねばな」
「フレン……」
ほしたら、フレンはそう言うて深いため息をついた。
三年半も音沙汰なしっつーのはいただけんけど、何よりちゃんと生きてたってわかったら大丈夫や。なんせ、あんたは命の恩人やねんし。お父に一発殴られる位が関の山や。(フレンはそれだけで充分凹みそうなお坊ちゃまやけどな)
「そうですな、いっかなミセス・ロッシュに高い魔力があっても、呪文だけでカンタンに行かない方が良いかもしれない。
セルディオも界渡りは座標軸が重要だと言っておりました。
いかにミセス・ロッシュには旧知の場所でも、それがどこにあるのか判らない状態では、案外とんでもない場所に送られてしまうかもしれません。
実際、座標を特定しなかった日本の者たちがたどり着いたのは、グランディールのはずれ。しかも、一ヶ月の時間差までできていたのですからな」
フレンの言葉にうなずいて、デニスさんもそう言う。せやった、あの話でセルディオさんがギリギリの魔力でとりあえずぶっ飛ばしたんもあるかもしれんけど、『こたろう』と『よしひさ』の2人は一ヶ月後の森の中に放り出されたんやった。車に乗ってへんかったら行き倒れになってたかもしれへん。
それに、あたしが最後に日本でおったんがミナミやし、ちょうどカラオケ屋の前に出てきたらええけど、座標? がずれて御堂筋のど真ん中とかに出てしもたら、着いたとたんに車と鉢合わせなんて、そんなんシャレにもならん。
それと、あたし一人で帰ったら、今度はオラトリオの場所がたぶん判らへんと思うもん。
「フレン、連れてってくれる?」
あたしがそう言うと、
「ああ」
フレンは頷いて、あたしの髪の毛をくしゃくしゃしながら頭を撫でた。
「では、今から行って来られてはどうですか」
すると、デニスさんはそう言って表に向かおうとする。
「えっ、でもデニスさんガッシュタルトからわざわざ来られたんんでしょ?」
そうやん、あたしらに象(実はマンモス)の話聞くんちゃうん。
「まぁ、それはそうですが、私は既に気ままな隠居の身、日を改めて参ります」
ほしたら、デニスさんはそう言うて止まらんと行くから、
「じゃぁ、良かったらここで待っててください。あたしたち“すぐに帰ってきます”」
あたしは慌ててデニスさんにそう言うた。フレンのために『帰ってきます』の一言に態とに力を込めて。そう、生まれたんは大阪やけど、今生きとんのは、アシュレーンのシュバル。あたしはここに『嫁に来た』んやから。
「チーズ……」
あたしの言葉に戸惑いの表情を見せたフレンに、
「“行こう”、フレン」
あたしはそう言うて頷いた。
「そうだな。行こう、お前の生まれた世界へ」
フレンもその意味に気づいたんか、そう言うてあたしに頷き返した。
次回、2人はやっと日本へ? さて、無事に『界渡り』はできるのでしょうか。
そこが御堂筋のど真ん中でないことを作者も祈りつつ、次回へ……




