偉業
「チーズ、いい加減休んだらどうだ。完全に元通りになるにはもう少しかかるが、フレンはもう大丈夫だ」
ランスは大魔法を連発し、憔悴しきっているのに、一睡もしていないでフレンに付き添うチーズの肩をそういって優しく叩いた。
「でなければ、今度はお前が倒れてしまうぞ」
「あたしは大丈夫です」
それに対して、チーズはそう言って口を結んで俯いた。
「チーズ、お前がいてくれて良かった。でなければ……」
「違う、それ逆だから。あたしがちび黒ちゃんと遊んでなかったらこんな事にはならなかった……」
そして、ねぎらいの言葉をかけるランスに彼女は若干喰い気味でその発言を否定する。ランスは、
「それは違うな。フレンは今まで運が良かっただけだ。俺はな、いつかこんな事が起こると思っていたんだよ。
あの場合、お前が仔ファビィにちょっかいをかけずとも、母ファビィはフレンを襲っていただろう。まだ仔が小さい内の雌は、仔の安否に驚くほど神経質だからな。
そんなとき、あやつ一人であったなら、確実に命はなかった。
いや、他の者と一緒であったとしても、結果は同じだったろう。
チーズ、一緒にいたのがお前であったからこそフレンは今、こうして生きておられるのだ」
と言って、チーズに微笑みかけた。
「ホントにそう……なのかな」
だが、それを聞いても目をゴシゴシと擦りながら自信なさげにそう返すので、
「ああ、[テレビ電話]などという魔法、このオラトリオの誰にも思いつかん。
お前が並行世界の人間で、しかも電撃のカラクリに精通していたからこそできたことだ。
お前はもっと自身の偉業に誇りを持て」
ランスはそう言って未だ自分の成したことの大きさに気づかない弟の婚約者の頭を乱暴に撫で回す。
「偉業?」
すると、その言葉に首を傾げるチーズに、
「そうだ。魔法使いを各所に配備するだけで、その様子がシュバルに居ながらにして具に分かるんだぞ。
お前はこの魔法がアシュレーンの国力をどれだけ上げたのか、どうやら分かっていないようだな
早速、王からこの魔法を魔法騎士団に指南せよとのお達しがあった。やってくれるな、チーズ」
「あたしみたいなのが、教えて良いんですか。あたしって、まともに呪文詠唱できない奴ですよ」
そんなのが指南役などおこがましいとチーズは言う。
「ああ、その[テレビ電話]のメカニズムを一番よく分かっているのはお前だろう。俺はお前に聞いた詠唱文言しか分からんからな。
で、そこでだな……この際だからフレンと祝言を挙げぬか」
その言葉に目を丸くしてしまったチーズに、
「いや、そのな……婚約は所詮約束だ。騎士の中にはそう言って強引に関係を迫る奴がおるやもしれん。その点、正式な妻女ならその心配はない」
ランスはあたふたとそう付け加えた。それを聞いたチーズは、
「良いですよ。でも、あたしなんかが公爵家の奥様でいいんですか?」
と笑って言った。ランスはあまりにも簡単に彼女が結婚を承諾したことに半ば拍子抜けしながら、
「もちろんだ。でなければ婚約もさせん」
と、頷きながら返した。
そして、(やはり、この二人は『天の采配』だった)とランスがその感慨に浸っていたとき、チーズがいきなり、
「ネコ、ネコの声がする」
と言って、屋敷の外へと駆けだした。
「チーズ! どこへ行く」
慌てて追いかけたランスが見たものは、
「ちび黒ちゃん」
と言いながら、さきほどの部屋の窓辺でうずくまっていた仔ファビィを抱くチーズの姿だった。
天はその目的を達すれば、トリッパーは元の所へ……それもテンプレですからね。
でも、この場合、召喚したのはフレンですから。戻る訳がありません。
で、ちび黒ちゃん登場。この子の運命は?




