ファビィって?
「ファビィというのは、漆黒の闇のような毛並みを持つ獣だ。魔を帯びてはいないが、それだけに身体能力は高い」
ネコに似た真っ黒な猛獣ってなんかおったやろか……あ、豹……ウソぉ、豹って普通、草原おるもんちゃうん。また世界が違うみたいなこと……って、ここはその異世界か。
「ファビィは治癒に関わる獣でないからな」
近寄らない方が得策だと、フレンは言いながら、今日はその位にしとけと身振りで示して強引にあたしからクポの実のカゴをむしり取ると、スタスタと山を下りて行く。けど、
「待ってよ」
とあたしがその後をついて走っていったら、
「走るな!」
とフレンが慌てて怒鳴った。
「そっと離れなければ意味がないだろう」
「は?」
「でないとファビィの仔が付いてくるではないか」
確かに、私が走ると、ちび黒ちゃんは嬉しそうに追っかけてきたけど。
せやけど、なんで付いてきたらあかんの。首をひねったあたしにフレンは
「お前は生まれて間もない子供を放って歩き回れるのか」
いきなりそう聞いてきたんで、首をブンブン横に振る。あたしにはもちろん子供はいてへんけど、おねぇとこのたっくん(四歳)ぐらいやったらまだしも、ユージ(一歳半)やったら絶対に放っとけへんよ、そんなもん。
「だから、そういうことだ。仔がいるということは近くに絶対に親がいる。親の前で知らぬものが手をかけていたら、普通どう思う」
「そら、面倒みてくれてありがとうって……」
「バカ、それは人間の場合だろうが」
「バカってねぇ! フレンってバカバカ言い過ぎ」
「バカだからバカだと言ってなにが悪い。獣が種の違う生き物を信用すると思うか」
ま、言われてみればそうやな。
「特にファビィは一回に産む仔の数が少ない、今回生まれたのはそいつだけだったに違いない。
おそらく母親はこいつに食べさせるために狩りでもしているのだろう。
やっと戻ってきたところにかわいい我が仔の側に見知らぬ輩がいたらどうなる」
「どうなるって……」
「奴はたぶん、仔を狩られると、そう判断するだろうな」
全く予想のつけへんあたしの表情を見て、フレンはため息を吐きながらそう続けた。
「あたしにそんなつもりはないよ」
「お前にそんな気がなくても、それが自然界の常識だ」
で、慌てて否定したあたしにフレンは淡々とそう言うと、何かに気づいたようにビクっと体を震わせて、
「こいつのためにも無駄な闘いは避けたかったのだがな、どうやらそうもいかないようだ」
と、岩陰の一つを顎で示す。そこには真っ黒な巨大サイズの猫(実のところ豹なんてテレビでしか見たことないし。若干フォルムが豹とは違うような気がする)が気配を消してんのに、それでも威圧感バッチリで立っていた。
チビ黒母登場でいきなりのピーンチ!
さて、どうしよう……




