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Cheeze Scramble  作者: 神山 備
魔法使いの弟子編
31/61

メイサへの帰還

 そう、何気なく言ったその一言で、俺はチーズに『婚約はするが結婚はしない』と言質を取られてしまっていたのだ。とはいえ、あの性格だ、上から強制的に、

「嫁になれ」

と言ったところで首を縦に振る奴ではなかろう。仕方がない、徐々に間合いを詰めていくしかないか。

 

 そして、そのままシュバルに残るように強要する母上に、チーズはきっぱりと俺とメイサに帰ると言った。

「そんなぁ、チーズちゃんはここよりもずっと便利なところにいたんでしょ? メイサのような田舎町じゃ不自由でしょ」

母上のそんな言葉に、

「いいえ、たった三日ですけど、ハンナさんも良くしてくださいますし、そんなに不自由じゃないと思ってます。

それに私、畑仕事は好きですし」

彼女は元気に笑ってそう答えた。

 実のところ

『スマフォもパソもテレビもないんだからシュバルもメイサも大差ないわよ』

と言うのがその本音だったようだ。パソというのが光る箱の名前、スマフォが時々磨いていた石版の名前らしい。テレビも形状は光る箱なのだが、用途が違うとのこと。

 ニホン(これが国の名前だそうだ)はとくにこの『機械』の技術が発達しているのだという。

 そして、この『機械』を作っているところでチーズは働いていたという。辞書だと言い張った石版も、彼女の『職場(彼女はそれを会社と呼んでいる)』で作られたらしい。

 ちなみに、この『機械』は電撃で動いているという。光る箱はもちろん、あの動く部屋までもが電撃で動くというのだから驚きだ。

 電撃魔法は回復魔法に次いで俺の得意なモノ。何でもいいから是非作ってくれというと、

「ムリムリ! あたしが作ってたんじゃないもん」

と言われた。何とその『機械』を作るのもまた『機械』だというのだ。

 ああ、話が逸れてしまった。チーズに聞くニホンの話はあまりにもオラトリオと違うので、つい枚挙に暇がなくなってしまう。

『それなら、自由になる方がいいもんね。シュバルだとお付きの侍女さんまでいてする事ないし、だからといって、社交界なんて庶民には性に合わないし。

何より、結局嫁扱いされて、なし崩しに結婚へと持ち込まれるのは必至。たった三日で婚約パーティーでしょ。ジーナさんってそういうこと巧そう』

と、彼女はそのときそう付け加えた。確かに母上ならやりかねないし、それは帰りたいという思いから出ているのも解っているのだが、それでも俺には俺と添うのが絶対にイヤだというように聞こえて、内心面白くなかった。

 ただ、シュバルにいるよりはメイサにいる方が男の目に触れるのは格段に少ない。それに、薬草園に魔法修行と、結局は俺と日々の大半を過ごすことになるのだ。おいおいその関係も変わっていくだろう。

 だが、この考えが甘かったことを俺は後日思い知ることになる。


 そして、シュバルに行って十日、やっと解放された俺たちは帰途についた。

 母上が彼女に侍女を付けると言ったのを二人がかりで何とか丁重に断り(見張られる!  と意見が一致した)母上が短期間の間によくぞ用意したと思う量の衣装や小物類をどっさり詰め込んでの帰還となった。

「こんなモノを用意してもらったって、あたし着ないんだけどな」

馬車に乗り込みながらチーズはぼそっとそう言ったが、だからといって迷惑だという表情はしていなかった。

「嬉しくない訳じゃないのよ。元々こういうのってキライじゃないし」

聞けば自分ごときにそんなに多額の金を遣わせたことを恐縮していたらしい。

 チーズはニホンで、『会社』の金銭の流れの仕事をしていたという。それでなくてもオオサカジンは無駄な金の流れにはシビアなのだとか。その時、

「1000円(これが彼女の国の通貨単位だと聞いた)のモノが750円で買えたら嬉しくない?」

と逆にそう質問されたが、俺はそもそも買い物自体したことがないので解るわけがない。

 だが、端から言い値で買うつもりがない買い手とそれを含んだ上で値を付ける売り手の攻防戦は、聞いていて伽のように面白かったことだけは認める。

 いや、チーズの語り口が面白かったのかもしれない。そのままニホンにいれば、もしかしたら作家として大成していたかもしれない。俺はそれも摘んでしまったのかもしれない。

 帰ってきたチーズを大喜びで迎え入れるハンナを見ながら、もし、万が一彼女が自力で界渡りの方法を見つけたのなら、それを『天の采配』だと認め、彼女を元の世界に返してやろう。俺は拳をきつく握りしめて、心の中でそうつぶやいた。 

早速魔法修行といきたかったのですが、ジーナさんのごり押しを払いのけて帰るのに一話費やしてしまいました。


フレン、メイサまでの道中暇だったので、千鶴に彼女の地球での彼女のことを聞いたようです。千鶴の説明でフレンが正しく理解したかは不明。

ただ、フレンのストーカーチックな『アクセス』がなければもっとミョーな方向に理解されていたかもしれませんけどね。


ちなみに、カロルちゃんはロッシュ家のイケメン使用人がメイサまで乗っていきました。『彼女』、ただのイケメン好きだったようです。

メイサの家の厩舎に何事もなくカロルちゃんがいるのを見て、少し複雑な気分になったフレン君でした。

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