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弟子志願

執拗に帰る方法を聞くChijuruに、

「界渡りなど所詮伽だと思っていた。

しかし、おまえがオラトリオではない世界から来たと言うのが真実ならそれもそうなのだろうな」

(方法を知るものは本当はお前の目の前にいるのだが)俺は動揺を悟られないように無表情を装ってそう言った。

「ウソじゃないわよ。あたしオラトリオなんて知らないもん」

彼女は俺の言葉を聞いてムッとしながらそう返した。

「人の寝所に下着姿で現れた女の言うことなぞ信用できるか。寝首を欠かれるのはごめんだからな」

「だから、これは下着じゃないって!」

一生懸命言うのだから、本当に下着ではないのだろうが、だとしたら俺はあちらの世界の男共の忍耐を褒めたい。こんなに魔力をまき散らしながらあられもない格好をしているChijuruは、オラトリオでは半日経たずに押し倒されるぞ。俺の理性もいつまで保つのか自信がない。


「ねぇ、そしたらそういうおとぎ話になんかヒントとかないの?」

そして、Chijuruは尚もそう食い下がる。

「昔の文献を駆使すればそれなりのヒントもあるかもしれないが、所詮は絵空事だ」

そうだ、術を発動させた当のこの俺が一番驚いているのだから。

「ねぇフレン、あんた魔法使いなんでしょ。あたしを弟子にしてよ。

ハンナさん、さっきあんたのことを国一番いや、オラトリオ一の魔法使いだって自慢してたんだけど? 

魔法を覚えたら、あたし自分で帰る術探すよ」

Chijuruはまったく良いことを思いついたと言わんばかりに得意顔でそう言った。

「ハンナの言うことをいちいち真に受けるな。それに、言っとくが、魔法は万能じゃない。そんな雲を掴むような話だけで術式を組めるようなカンタンなものではない」

「何で、あたしには結構魔力があるんでしょ?」

俺のように魔道語と一般語が混濁するほど幼い頃から魔法に親しんできたのならともかく、大人になってからしかも意図的に魔道語を編むのはたぶん無理だろう。それにしても、弟子だと? 

「ああ、それなりに魔力はあるようだが。残念ながら俺は治癒師だ。治癒に関する魔法と、一般的な護身用の魔法以外は知らんぞ。

それから、俺の弟子になるんだったら、薬草の管理も手伝ってもらうぞ。そんな細腕で畑仕事なんかできるのか」

「できるわよ!」

しかし、Chijuruはそう即答した。

 まぁいい、我が家の薬草園の広さを目の当たりにしたらこんな華奢な女、すぐに音を上げるだろう。俺はChijuruを伴って、薬草園に赴いた。

「ここがロッシュ家所有の薬草園だ。どうだ、働き甲斐があろう」

そこを見たChijuruは思った通り呆然としていたが、予想に反して弟子になることを諦めるとは言わなかった。

 まあいい、魔力が高くても体力がなければ術の持続ができない。あの体つきでは普段まったく運動していないに違いない。

 万が一Chijuruが界渡りの魔法を会得したとして、術の途中で精神力が切れたら、世界の狭間に吸い込まれて仕舞うかも知れない。体力をつけておくにこしたことはないだろう。

「では、明日からビシビシ鍛えるからな」

俺がそう言うと、Chijuruはぶすっとしながらも無言で頷いた。

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