人はそれを……と呼ぶんでは? 1
だが、その一歩を踏み出したものの、どうしたら良いのか分からない。
『彼女』は俺から十セグルタ(約十二メートル)ばかりの場所にいたが、全く俺に気づかない。魔力は引き合うはずなのにと思って俺は一旦首を捻ったが、俺自身が魔力を隠していたままだったこと(強い魔力を持つ者は人を引き寄せる効果があるので、普段は隠している)に気づいた。ならばと解放してみるが、それでも『彼女』は一向に気づく気配がない。
もしかしてこれは幻影で実体がないのかと思った途端、俺は誰かに肩を突き飛ばされ、
【コラ、こんな道の真ん中にボケっと立ってんな、ボケ!】
他の者と同じ甲高い声で、怒鳴りつけられた。突き飛ばした当の金髪をたてがみのように逆立てた青年の言った言葉は分からない。
(だが、ぶつかってきたのはあちらの方ではないか)そう思った俺は、その男をじろりと睨んだ。ただ、ぼんやりしていたのは事実なので
「I ,I am sorry」
一応謝りの言葉だけは吐いておく。するとその男は俺の気迫に気圧されたか、
【何や、にーちゃんガイジンかい。エクスキューズミー、エクスキューズミー】
と、相変わらず俺には分からない言葉を吐きながら、そそくさと逃げていった。
(ふっ、他愛もない奴め)俺はそう思って鼻で笑ったが、『彼女』を見失ったことに気付いて蒼くなった。『彼女』はどこだ! 辺りを見回すと、先程より更に十セグルタほど離れたところに、魔の片鱗を見つける。こうなると、『彼女』以外に魔力を持っていないこの場所は、俺にとって非常に好都合だと思った。
慌てて追いかけると、『彼女』は連れと思しき人々四~五人と共に、周りに乱立する塔の一つに入って行くではないか。それとなく付いて俺も入るが、そこで彼らの内の一人がカウンターらしきものの上で何かを書き込んだ後、わいわいと更に奥に進んでいく。一行は狭い場所に、机とソファーとなにやら光る箱がごちゃごちゃと置かれている部屋に入って行った。
さすがに仲間内だけの場所に入っていくわけにも行かず、俺は咄嗟に『アクセス』の呪文を『彼女』に施してその塔を出た。そして元の道を辿り、最初この場所に出てきた所まで戻って来る。
戻って来て良かったと思った。既に繋がれた空間が歪み始め、揺らいでいたからだ。俺は、慌てて自室に飛び込むと、その直後あのけばけばしい世界がぷっつりと消えた。俺の背中に冷たい汗が走る。もう少し長居をしていたら、戻れなくなっていたかもしれなかった。
『彼女』を追っかけるフレン。
一応、フレンには通じてないんですが、怒髪天にーちゃんが何をしゃべっていたのかを分かるように、【】の中書いておきました。
しかしフレン、どう見たって、それストーカーですよね。
次回、『彼女』に『アクセス』をかけたフレンの更なる暴走が続きます。




