現れた風景
ここは、何処だ……」
そこは薄暗い寝所の灯りから一変、一面の光の海だった。あまりの眩しさに一瞬目が眩んだほどだ。そして、被せられるように押し寄せる喧噪の波。メイサは夜だったが、ここは昼間なのだろうかと空を見上げると、高い塔が乱立する隙間に見えるのは、間違うことなき夜空。どうやら、人為的に光らせているようである。何のために……祭りでもあるのだろうか。
道行く人々の言葉は全く分からなかった。それにしても、彼らの言葉は皆一様に声高で、早口なので、まるで罵り合っているようにしか聞こえない。しかし、合間に笑いが挟まれているところをみると、本当はそうではないのだろう。歩く速度もおそろしく早い。
気がつかぬうちに眠ってしまったのか、と思って顎を掴んで捻ってみた。痛みがその部分に走るが、周りの景色は変わらない。
(やってしまったか……)
俺はその時になってようやく、自分が魔道語で呟いていたことに気づいた。頑是無い子供ならともかく、この歳になって、口語と魔道語を取り違えてしまうとは……情けない話だ。
では、ここに俺の伴侶となるべき女性がいるのかと見回してみるが、人出は多いが魔力を持っている者が少ない、否、皆無だ。
「やはり眉唾だったではないか」
と踵を返して戻ろうとしたとき、『彼女』は現れた。
全く魔力のない集団の中で一人強力な魔力を放つ『彼女』は、俺にとっては存在そのものが最も強い光のようだった。
当然のことながら、『彼女』の話す言葉は分からない。だが、その何とも楽しそうにまくし立てるその姿に胸が高鳴る。
そして俺は、悪い術に操られるようにその光の中に一歩を踏み出した。




