なんで、そこまで拘る??
「とにかく、あたしはいきなり現れた訳ですし、またいきなり元の世界に戻るかも知れないんです。そんなので結婚なんてできません」
あたしはそう言うて、フレンとの結婚に断りを入れた。
別にフレンのことを生理的にイヤやとは思てへん。腹は黒いけど結構イケメンやし、お貴族様やもん、経済力はある。けど、いきなり飛ばされてきた世界で、なし崩しに結婚はゴメンや。何より他人の褌で相撲取りたないし、愛のない結婚もしたないし。
それでもジーナさんは承知せんかった。
「結婚せずに、ギィちゃんの弟子にだなんて……」
と、涙目でブーたれるブーたれる……
それから、魔力はかなりとしか聞かされてへんかったんやけど、どうやらあたしはフレンに匹敵するほどの力を持っているらしい。ハンナさん曰く、『オラトリオ一』と言われるフレンにだ。
ただ、使こたことがないから、コントロールもへったくれもあらへん。
で、なんかこのオラトリオでは、魔力を持つもんは同じように魔力を持つもんに無意識に惹かれるらしい。一種のフェロモンみたいなもんで、自分の意志や好みは関係ないんやて。
コントロール不能のあたしの魔力は周囲からはフェロモン垂れ流し状態に見えるっちゅうんやから、びっくりを通り越してもう呆れるしかないって感じ。
そんなあたしはきっちし『売約済みの札』でもつけてくれんと、アブのうて見てられへんと、ジーナさんは言う。
そんなん、見てられへんかったら見やんでええやん。フレンがこのままメイサ暮らしを続けるんやったら、基本ジーナさんは見んでも済みますけど。そんなに息子に嫁が欲しいんかいな……ま、日本でも必死に息子の嫁探ししてる親もいっぱいおるけどな。さすがにいきなり現れた女と結婚さそうなんて親はおらんやろ。
そんな妙な膠着状態が続く中、フレンはいきなりあたしに近づくと、
「とにかく、一応婚約者ということで折り合いをつけてくれないか」
と、耳打ちしてきた。(それにしても一応ってなんなん?)驚いてフレンの顔を見たあたしに、
「いや、これ以上母上に無駄な縁談を持ち込ませないためにだ。形だけで良い」
と、付け加える。
そうか、あたしが断ったらフレンにはこの先もずっと『嫁もらえ!』の攻撃が続く訳で、それを回避するために形だけ婚約しといてくれってことか。
あたしは、とりあえず形だけならと、その申し出を受け入れた。
結局、お披露目のパーティーとやらを開かれてしっかりと嫁扱いされてから、あたしはなんかええように丸め込まれたと気づいたんやけど、もう遅かった。
しかも、ホントは二十二歳やのに、十八歳やってことになってるし。
なんでやのんっておもわず咬みついたあたしに、
「だって、チーズちゃんのお歳きいてなかったじゃない。だから見た目で発表しただけよ」
って、しゃらっとジーナさんが言う。
実はこっちの成人は日本と違って十六歳。女子の結婚適齢期は十八歳~二十歳で、二十五歳過ぎると嫁き遅れと言われるらしい。二十歳過ぎてると体裁悪いとかそういう理由やろ、絶対に確信犯。やっぱり親子や。ううっ、フレンの血をひしひし感じるわぁ。
ええもん、婚約はしゃーない。けど、結婚だけはどうしたって阻止したるから。
「ホントに、これって形だけなんだよね」
あたしは似非スマイルであたしをエスコートしているフレンの二の腕を招待客に見えんように思いっきりつねってやった。んで、あいつが、声も出せんで身悶えているのを見て、ざま見ろと心の中で大笑いしたった。
母親世代として、ジーナさんの気持ちはよーく解ります。
で、これでやっと千鶴の『魔法使いの弟子』生活が始まるわけですが、フレンがなんか言いたいらしくて、ただいま脳内で千鶴とフレンのMC争奪戦が勃発中。
さて、勝者は?




