Das Wunderkind Is Still Under Studying(1-5)
「さて。
ではフント・デス・モナーツの主要メンバーを紹介しておこう。
レイチェル、皆をフロアに集めてくれ。
全員が集まるには、個室は狭すぎる」
シュネー嬢の鶴の一声に従って、僕ら(僕、シュネー嬢、そしてアイン嬢)は薄汚いフロアに戻った。
「皆が集まる前に、我々の立場と仕事を教えておく。
我々はもともと、帝国警察局外事課に所属する極秘機関だった。
簡単に言えば、対外諜報戦の中でも、最も危険で、最も薄汚い仕事をする機関だ」
それを聞いて、僕の頭上にはクエスチョンマークが舞い踊った。
帝国警察局は、極めて遺憾ながら、一枚板の組織ではない。組織は大きく分けると内事課と外事課に分かれており、この2つの部局は伝統的に仲が悪い。
なんでも内事課を創設したのが元平民(もちろん叙勲されているが)だったのに対し、外事課は純血の貴族が創設したのが、抗争のきっかけだとか。
実に前時代的な対立だし、20世紀にまで引っ張るような話でもあるまいにと思うのだが、現実はいろいろと面倒くさい。
ともあれ、そんな外事課生まれの組織が、なんで今になって内事課に協力しているのだろう?
「外事課と内事課の対立は、見せかけだ。
帝国警察局は分裂している――そう侮られたほうが、敵の動きに甘さが出やすい。もっとも、その偽りの対立は、いつの間にか本物の対立に置き換わってしまったようだが。
ともあれ、時代が下るにつれ、警察局における最大の武闘派である我々が戦うべき相手は、徐々に変わっていった」
驚きの情報を大慌てで咀嚼しながら、僕は考えを巡らせる。
なるほど、19世紀末においてレインラント帝国は、世界最大の強国だった。その結果、対外諜報戦はより「血の流れにくい」戦いが主流となっていった。
外交官の付き人として入国した人物が、一晩明けたら心臓にナイフが刺さった状態で帝都郊外のプレツェン湖に浮いていた、なんて事態が多発する物騒な時代は、過去のものとなっていったのだ。
だとしたら、そこにおいて警察局最大の暴力装置は、どう使われる?
「もしかして、警察局や帝国軍そのものが、フント・デス・モナーツのターゲットになった?」
僕の大胆な推測を聞いて、シュネー嬢は少し驚いたようだった。
だがそれは、僕の説が頓狂なものだったからでは、なかった。
「その通りだ。我々は最強の武を誇る秘密機関だ。
ゆえにその敵として選ばれるのも、その時代における最強の存在となる。
つまり我々は、警察局や帝国軍内部の人間が行う犯罪行為や反逆行為に対抗する、盾にして短剣となった」
やはり。警察局や帝国軍の内部で犯罪が蔓延した場合、これらを取り締まるには、端的に言えば警察や軍隊(の一部)と戦って勝てる組織が必要になる。
「現在も我々は、警察局や軍隊内部で発生する犯罪の調査と摘発、必要に応じての排除を行っている。
ただし、我々に独自の捜査権はない。現状では、あくまで警察局内事2課の要請と承認を得て、彼らがターゲットとする犯罪の調査と対処を行う」
なるほど……と納得しかけたが、ここで大きな疑問と疑念が鎌首をもたげた。
今のフント・デス・モナーツは、どの組織に所属しているのか? シュネー嬢は犯罪行為を「必要に応じて排除」すると言ったが、これはつまり暗殺だ。当然だがレインラント帝国法は、そんな非合法行為を認めていない。
僕は念のため、そこをシュネー嬢に質問としてぶつけてみた。
「良い目の付け所だ。あなたはなかなか鋭いな。
我々は現在、レインラント帝国内務省の下部組織として成立している。
事実、我々の書類上の正式名称は、内務省外事8課特別工作班だ。
よって我々が行うのは非合法な暗殺ではなく、内務省法に基づく粛清だ。
帝国法には、抵触していない」
はぁ!? 内務省!?
僕は思わず、何を馬鹿なことを言ってるんだ的な目でシュネー嬢を見てしまう。
現代のレインラント帝国には、内務省なんて組織は存在しない。19世紀に内務省は一度解体され、その後もいろいろあったが、ついに再編されなかった。
「私の説明に不満があるようだな。だが、これが真実だ。
確かに内務省は、実体ある組織としては存在しない。
だが現帝国法によれば、内務省は存在することになっているし、内務省法も失効していない。
警察局初代長官のイグナーツ・オンドルフ卿は、完全に形骸化していた内務省という機能だけを保存し、それを警察局内部に取り込んだのだ――内務省外事8課特別工作班という形で、な」
うん、とりあえず分かった。とても重要なことが、分かった。
僕はフント・デス・モナーツというとんでもない秘密組織の存在を知ってしまい、それが原因で自分の生殺与奪を他人に預けることになってしまったが、それでもなお、この世には知らないほうがいいことが、まだまだたくさんあるのだ。
ということで僕は軽く両手を挙げ、「降参」の意を示す。
シュネー嬢はそんな僕を見て苦笑すると、「ではこのあたりで勘弁してやろう」と言い放った。僕も思わず苦笑い。
「そんなことより、フント・デス・モナーツの現メンバーを紹介するぞ。
一度しか説明しないから、一度で覚えてくれ。
ここにいないメンバーについては、おいおい説明する」
まだしも穏当な話題に切り替わったことに感謝しながら、僕はフロアに集まってきた華やかな女性たち――全員女性かよ!――に目を向けた。まったく、フント・デス・モナーツとやらを創設した人物は、相当にクレイジーな人間だったと見える。




