Das Wunderkind Is Still Under Studying(4-3)
はじめはじんわりと、それから急激に、理解が及び始めた。
僕はあのときクラマー中佐に向かって、「大山鳴動させて、鼠一匹の姿もなし」みたいな嫌味を言った。
この発言は、クラマー中佐が「大山を鳴動させた」ことを、証明してしまう。そしてそのわりに、何の効果も出ていないように見える、ということも。
この情報は、内事2課に潜むクラマー中佐の敵にとっては、まさに天啓だ。中佐が攻勢に出たけれど、まだその効果が現れていない。ならば今のうちに中佐を消すのがベスト――彼らはそういう、実に適切で合理的な判断が可能になる。
十分に注意深い敵(つまりフィッツ伯のような敵)であれば、僕の発言をもとに、さらに深い真実にまで迫っていった可能性もある。
なにせ「僕」が「中佐が大山を鳴動させた」と言ったのだ。つまり敵対者は、ここ最近、中佐の命令に基いて僕が行った仕事を洗い出して(この段階で一気に絞り込める)、「大山を鳴動させた」に相当し得る仕事を調べ上げればいい。それだけで、彼らが対処すべき状況や、新たな敵に関する情報が確保できる。
今更、冷たい汗が額に滲む。
まったくもって無用かつ不注意な僕の一言が、養父の命を危険に晒し、“フント・デス・モナーツ”が強襲される危険性を発生させたのだ。
必要な注意は、すべて与えられていた。
シュネー嬢は、「これより我々は警察局に対する調査を開始する」と宣言したうえ、僕に向かっては特別に「今回のメインターゲットは警察局内部だ。密告者は、警察局の中にいる」とまで繰り返し説明している。
なのに僕は「身内たる2課に自分たちの敵がいるはずがない」という常識に甘え、警戒を怠った。
「ようやく理解したようだな。
その鋭利な理解力をもって、ついでに私の怒りの万分の一でも把握してもらえると、実にありがたい」
シュネー嬢の嫌味がいちいち心に突き刺さるが、ぐうの音も出ない。
「あなたの致命的な一言を私が知ったのが、発言から30分後だ。
既に2課に浸透していたレイチェルが、自分のカバーが割れる危険を冒してまで、最大速力でここまで伝令に来てくれた。
大慌てでソーニャに連絡をとって、クラマー中佐を保護してもらってから先は、アドリブと、応急処置の繰り返しだ。
ここから先は、あなたの仕事だろう、ソーニャ。
私には恥ずかしくて、ここから先は語れん。続きを頼む」
シュネー嬢は疲れ果てたと言わんばかりに、ソーニャ嬢に話を振る。
「んー。まあ、いいけどさ。
ボクのはシュネーみたいに綺麗な話にならないからなあ……。
じゃあまずは、シュネーが仕掛けた、そりゃあもう綺麗な脚本の説明をしよう。シュネー、ボクの解説でもいい?」
シュネー嬢は、小さく頷く。その口元が、かすかに緩んでいる。
それを見て、シュネー嬢がソーニャ嬢に話題を譲った理由を、なんとなく察した。シュネー嬢は自分の「作品」を、ソーニャ嬢に語ってもらいたかったのだ。
「まず、話の大前提から行こう。
シュネーは君も参加したブリーフィングでいろいろ状況説明したそうだけど、あれは全部、君向けのパフォーマンスだ。君の能力を測りきれていない段階では、君にすべてを語ることなんてできなかったからね」
それはそうだろう。このあたりの情報管理は、警察局においても常識だ。
外国勢力が潜り込ませてきたスパイかもしれない新人局員に向かって、捜査資料をすべて見せるだなんて、考えられない。それと同じ対処を、シュネー嬢は僕に対して行った、というだけのこと。
「で、ここからが本題。
もう半年くらい前になるかな。ボクらは、というか発端はボクだったんだけど、いろいろあってブレンターノ大尉は怪しいと睨んだ。だから〈魔弾の射手〉の立場を使っていろいろ探ってみたら、超ヤバイ級に真っ黒だった、ってワケ。どう真っ黒かは、クラマー中佐から聞いてるよね?
これは緊急の対処が必要だねということになって、ここから先はシュネーにバトンタッチしたんだけど」
シュネー嬢は悔しさを言葉の端々に滲ませながら、音楽的な声で当時の警察局の惨状を語った。
「警察局上層部にも、ブレンターノは怪しいということに気づいてる者は、それなりにいた。だが彼らはブレンターノを再調査したり、監視したりすることには、消極的だった。
山程、もっともらしい理由を告げられたさ。どれもこれも、警察局らしい、書類の上ではもっともらしいが、中身のない理由だ。
そのうち、どうやらこの件の黒幕はフィッツ伯だということが見えてきた。
だが私にも油断があった。こちらがフィッツ伯が黒幕だと把握するのとほぼ同時に、フィッツ伯もブレンターノをめぐる汚職構造を探っている勢力がいることに――そしてそれが我ら内務省外事8課特別工作班であることに、気づいたのだ。
それを境いに、ブレンターノに関する我々の主張は、まるで受け入れられなくなった。それどころか、これ以上ブレンターノ捜査官を危険に晒すのであれば、我々を摘発する、なんて言い出す者まで出てくる有様だ」
シュネー嬢が語る警察局上層部の腐敗の深さに対し、ソーニャ嬢が「あれはひどかったね」と頷いてみせる。ソーニャ嬢の言葉にも、悔しさと怒りが滲んでいた。
「でもボクらはついに、ブレンターノは排除されるべきだと語る人物に巡り会えた。
それが、君のお養父さん、クラマー中佐だ。
君はもっと、お養父さんを尊敬したほうがいいよ。
彼がいなけりゃ、レインラント警察局はブレンターノとクルスカ・ファミリーに牛耳られてたかもしれない」




