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月の猟犬  作者: ふじやま
1st episode:Das Wunderkind Is Still Under Studying
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Das Wunderkind Is Still Under Studying(4-3)

 はじめはじんわりと、それから急激に、理解が及び始めた。


 僕はあのときクラマー中佐に向かって、「大山鳴動させて、鼠一匹の姿もなし」みたいな嫌味を言った。


 この発言は、クラマー中佐が「大山を鳴動させた」ことを、証明してしまう。そしてそのわりに、何の効果も出ていないように見える、ということも。

 この情報は、内事2課に潜むクラマー中佐の敵にとっては、まさに天啓だ。中佐が攻勢に出たけれど、まだ(・・)その効果が現れていない。ならば今のうちに中佐を消すのがベスト――彼らはそういう、実に適切で合理的な判断が可能になる。

 十分に注意深い敵(つまりフィッツ伯のような敵)であれば、僕の発言をもとに、さらに深い真実にまで迫っていった可能性もある。

 なにせ「僕」が「中佐が大山を鳴動させた」と言ったのだ。つまり敵対者は、ここ最近、中佐の命令に基いて僕が行った仕事を洗い出して(この段階で一気に絞り込める)、「大山を鳴動させた」に相当し得る仕事を調べ上げればいい。それだけで、彼らが対処すべき状況や、新たな敵に関する情報が確保できる。


 今更、冷たい汗が額に滲む。


 まったくもって無用かつ不注意な僕の一言が、養父の命を危険に晒し、“フント・デス・モナーツ”が強襲される危険性を発生させたのだ。


 必要な注意は、すべて与えられていた。

 シュネー嬢は、「これより我々は警察局に対する調査を開始する」と宣言したうえ、僕に向かっては特別に「今回のメインターゲットは警察局内部だ。密告者は、警察局の中にいる」とまで繰り返し説明している。

 なのに僕は「身内たる2課に自分たちの敵がいるはずがない」という常識(・・)に甘え、警戒を怠った。


「ようやく理解したようだな。

 その鋭利な理解力をもって、ついでに私の怒りの万分の一でも把握してもらえると、実にありがたい」


 シュネー嬢の嫌味がいちいち心に突き刺さるが、ぐうの音も出ない。


「あなたの致命的な一言を私が知ったのが、発言から30分後だ。

 既に2課に浸透していたレイチェルが、自分のカバーが割れる危険を冒してまで、最大速力でここまで伝令に来てくれた。

 大慌てでソーニャに連絡をとって、クラマー中佐を保護してもらってから先は、アドリブと、応急処置の繰り返しだ。

 ここから先は、あなたの仕事だろう、ソーニャ。

 私には恥ずかしくて、ここから先は語れん。続きを頼む」


 シュネー嬢は疲れ果てたと言わんばかりに、ソーニャ嬢に話を振る。


「んー。まあ、いいけどさ。

 ボクのはシュネーみたいに綺麗な話にならないからなあ……。

 じゃあまずは、シュネーが仕掛けた、そりゃあもう綺麗な脚本の説明をしよう。シュネー、ボクの解説でもいい?」


 シュネー嬢は、小さく頷く。その口元が、かすかに緩んでいる。

 それを見て、シュネー嬢がソーニャ嬢に話題を譲った理由を、なんとなく察した。シュネー嬢は自分の「作品」を、ソーニャ嬢に語ってもらいたかったのだ。


「まず、話の大前提から行こう。

 シュネーは君も参加したブリーフィングでいろいろ状況説明したそうだけど、あれは全部、君向けのパフォーマンスだ。君の能力を測りきれていない段階では、君にすべてを語ることなんてできなかったからね」


 それはそうだろう。このあたりの情報管理は、警察局においても常識だ。

 外国勢力が潜り込ませてきたスパイかもしれない新人局員(ルーキー)に向かって、捜査資料をすべて見せるだなんて、考えられない。それと同じ対処を、シュネー嬢は僕に対して行った、というだけのこと。


「で、ここからが本題。

 もう半年くらい前になるかな。ボクらは、というか発端はボクだったんだけど、いろいろあってブレンターノ大尉は怪しいと睨んだ。だから〈魔弾の射手〉の立場を使っていろいろ探ってみたら、超ヤバイ級に真っ黒だった、ってワケ。どう真っ黒かは、クラマー中佐から聞いてるよね?

 これは緊急の対処が必要だねということになって、ここから先はシュネーにバトンタッチしたんだけど」


 シュネー嬢は悔しさを言葉の端々に滲ませながら、音楽的な声で当時の警察局の惨状を語った。


「警察局上層部にも、ブレンターノは怪しいということに気づいてる者は、それなりにいた。だが彼らはブレンターノを再調査したり、監視したりすることには、消極的だった。

 山程、もっともらしい理由を告げられたさ。どれもこれも、警察局らしい、書類の上ではもっともらしいが、中身のない理由だ。

 そのうち、どうやらこの件の黒幕はフィッツ伯だということが見えてきた。

 だが私にも油断があった。こちらがフィッツ伯が黒幕だと把握するのとほぼ同時に、フィッツ伯もブレンターノをめぐる汚職構造を探っている勢力がいることに――そしてそれが我ら内務省外事8課特別工作班であることに、気づいたのだ。

 それを境いに、ブレンターノに関する我々の主張は、まるで受け入れられなくなった。それどころか、これ以上ブレンターノ捜査官を危険に晒すのであれば、我々を摘発する、なんて言い出す者まで出てくる有様だ」


 シュネー嬢が語る警察局上層部の腐敗の深さに対し、ソーニャ嬢が「あれはひどかったね」と頷いてみせる。ソーニャ嬢の言葉にも、悔しさと怒りが滲んでいた。


「でもボクらはついに、ブレンターノは排除されるべきだと語る人物に巡り会えた。

 それが、君のお養父(とう)さん、クラマー中佐だ。

 君はもっと、お養父さんを尊敬したほうがいいよ。

 彼がいなけりゃ、レインラント警察局はブレンターノとクルスカ・ファミリーに牛耳られてたかもしれない」


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