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月の猟犬  作者: ふじやま
1st episode:Das Wunderkind Is Still Under Studying
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Das Wunderkind Is Still Under Studying(4-2)

 乾杯からしばらくの間、みな食事と酒(一部はタバコ)に夢中だった。

 恥ずかしながら僕もその例に漏れなかった一人で、マーショヴァー卿が作ったという料理(いろいろと常識がおかしい)は、何もかもが圧倒的に美味しかった。


 概ね皆が料理を堪能したところで、ようやくガールズトークが始まった。内容は、まあ、そういう類の話だ。あとは音楽やら、流行やら、お洒落やら。あちこちを漂う会話の端々で、時折、最新型のサブマシンガンがどうの、スコープの調整がどうのといった話題が飛び交うのが、普通の女子会との最大の差か。

 ともあれ僕は微妙に居心地が悪い思いをしながら、マーショヴァー卿ご自慢のコーヒーを飲んでいた。確かに、今まで飲んできたコーヒーは泥水だったのかと思うくらいに、このコーヒーは美味しい。


 と、そんな感じで見事にボッチをかこっていた僕の前に、マーショヴァー卿が立った。僕も慌てて立ち上がり、とりあえずコーヒーの美味しさを絶賛する。

 が、マーショヴァー卿の返答は、まるで予想外の方向を向いていた。


「さて。そろそろ新人(ルーキー)の反省会といこうじゃないか。

 シュネー! ソーニャ! このうっかり坊やに、説教する時間だぞ!」


 マーショヴァー卿に呼ばれた二人が、やれやれといった感じで僕の前に集まってくる。全員、表情が何とも言えず剣呑だ。僕は思わず気圧されて、一歩後ずさってしまう。


「立ち話も何だ。そこのテーブルを使おう。

 私は飲み物と、軽く摘むものでも用意しよう。

 シュネーとソーニャは、うっかり坊やに、自分がどれだけデカいミスをしでかしたのか思い知らせろ。

 では、任せたぞ」


 マーショヴァー卿が仕切るがままに、僕ら3人は小さな丸テーブルを囲んで座った。


「さて……まあ、私から始めるとするかな」


 口火を切ったのは、シュネー嬢。ソーニャ嬢は無言でタバコを咥え、ライターで火をつけた。


「最初に確認するが、今回の事件の処理において、自分がとてつもなく巨大なミスを犯したことに、気がついているか?」


 僕は反射的に頷いてから、バツの悪い顔になりつつ、首を横に振った。

 マーショヴァー卿による乾杯の音頭からこのかた、自分が何をしでかしてしまったのかは、ずっと気になっていた。だから食事をしながら、お酒を飲みながら、ガールズトークを小耳にはさみながら、ずっと自分の行動を振り返っていた。

 でも何がミスだったのか(それも史上空前と呼ばれるレベルのミスだったのか)、未だに特定できていない。

 そんな僕の様子を見て、シュネー嬢は怒りのオーラを発散させ、ソーニャ嬢は呆れたと言わんばかりに首を振る。


 深刻な空気になっている僕らのテーブルの横を、ふとレイチェル女史が通りかかった。


「そうねえ。エーデシュ君には早く一人前になってもらわないと、またシュネーが『殺す、今すぐあの馬鹿を殺す』ってヒステリー起こしちゃうわね。

 ああなったシュネーを宥めるの、大変なんだから。

 次にシュネーがエーデシュ君を殺すって言い出したら、私はもうエーデシュ君を弁護しないからね。じゃ、頑張って」


 言いたいことを言って、レイチェル女史が去っていく。

 ええと――僕は、シュネー嬢に殺意を抱かれるくらい、とんでもないミスをした? でも、いつ? どんな?


「……まずは、あなたがやらかした、作戦全体を崩壊させる寸前まで行ったミスが何かを指摘しよう。

 本当は、自分で気づいてほしいのだが、時間が惜しい。それに自力での到達を待っていると、私がまた、あなたを殺すと叫び出しかねない。そこを堪えられる自信がない」


 すさまじい罵倒をされているが、僕の心臓は恐怖に縮み上がる一方で、とてもではないが奮起する気力は湧き上がらなかった。


「ここを出て、3日目のことだ。

 緊張を切らせたあなたは、潜入捜査官としてあるまじき行為を行った」


「ええと……飲みに行ったこと、ですか」


 僕の返答にソーニャ嬢が吹き出し、シュネー嬢が激昂する。


「あなたは馬鹿か!? そこまで馬鹿なのか!?

 なぜ内事2課の局員として普通に行うことを普通に行うことが、失態になると思うのだ!? 何をどうしたら、そこからカバーが割れると思う!? むしろあなたは、普段は1日起きに飲みに出ているのに、ここを出た日、その次の日と2連続で直帰している。そうやって行動パターンを乱すほうが、よほど問題だ!」


「で、では、ここを出て2日目に、飲みに出なかったのが……」


 再びソーニャ嬢が吹き出す。シュネー嬢はまたしても激昂。


「馬鹿、この大馬鹿! 確かに、行動パターンを乱すのは、小さなキズになる。敵の程度が高ければ、その小さなキズが、致命傷となることもある。

 だが、あなたがやったことは、そんな上等なレベルの失態ではない!」


 僕は縮こまって、シュネー嬢の怒りを受け止める。


「3日目の午前、あなたはクラマー中佐に向かって、とんでもない内容の愚痴をこぼしている。

 あなたにとってみれば、遠回しな、なんでもない愚痴のつもりだったのだろう。だがクラマー中佐の隙を探している者達にとってみれば、あなたはクラマー中佐を背後から撃つ友軍に他ならなかった。

 あなたは、クラマー中佐の動向を、敵に対して決定的に暴露した! それどころか、ついでのように我々のカバーまでも危うくしたのだ!

 たった一挙動でここまで事態を悪化させられるのは、もはや才能としか思えない! 信じがたい!」


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