Das Wunderkind Is Still Under Studying(4-2)
乾杯からしばらくの間、みな食事と酒(一部はタバコ)に夢中だった。
恥ずかしながら僕もその例に漏れなかった一人で、マーショヴァー卿が作ったという料理(いろいろと常識がおかしい)は、何もかもが圧倒的に美味しかった。
概ね皆が料理を堪能したところで、ようやくガールズトークが始まった。内容は、まあ、そういう類の話だ。あとは音楽やら、流行やら、お洒落やら。あちこちを漂う会話の端々で、時折、最新型のサブマシンガンがどうの、スコープの調整がどうのといった話題が飛び交うのが、普通の女子会との最大の差か。
ともあれ僕は微妙に居心地が悪い思いをしながら、マーショヴァー卿ご自慢のコーヒーを飲んでいた。確かに、今まで飲んできたコーヒーは泥水だったのかと思うくらいに、このコーヒーは美味しい。
と、そんな感じで見事にボッチをかこっていた僕の前に、マーショヴァー卿が立った。僕も慌てて立ち上がり、とりあえずコーヒーの美味しさを絶賛する。
が、マーショヴァー卿の返答は、まるで予想外の方向を向いていた。
「さて。そろそろ新人の反省会といこうじゃないか。
シュネー! ソーニャ! このうっかり坊やに、説教する時間だぞ!」
マーショヴァー卿に呼ばれた二人が、やれやれといった感じで僕の前に集まってくる。全員、表情が何とも言えず剣呑だ。僕は思わず気圧されて、一歩後ずさってしまう。
「立ち話も何だ。そこのテーブルを使おう。
私は飲み物と、軽く摘むものでも用意しよう。
シュネーとソーニャは、うっかり坊やに、自分がどれだけデカいミスをしでかしたのか思い知らせろ。
では、任せたぞ」
マーショヴァー卿が仕切るがままに、僕ら3人は小さな丸テーブルを囲んで座った。
「さて……まあ、私から始めるとするかな」
口火を切ったのは、シュネー嬢。ソーニャ嬢は無言でタバコを咥え、ライターで火をつけた。
「最初に確認するが、今回の事件の処理において、自分がとてつもなく巨大なミスを犯したことに、気がついているか?」
僕は反射的に頷いてから、バツの悪い顔になりつつ、首を横に振った。
マーショヴァー卿による乾杯の音頭からこのかた、自分が何をしでかしてしまったのかは、ずっと気になっていた。だから食事をしながら、お酒を飲みながら、ガールズトークを小耳にはさみながら、ずっと自分の行動を振り返っていた。
でも何がミスだったのか(それも史上空前と呼ばれるレベルのミスだったのか)、未だに特定できていない。
そんな僕の様子を見て、シュネー嬢は怒りのオーラを発散させ、ソーニャ嬢は呆れたと言わんばかりに首を振る。
深刻な空気になっている僕らのテーブルの横を、ふとレイチェル女史が通りかかった。
「そうねえ。エーデシュ君には早く一人前になってもらわないと、またシュネーが『殺す、今すぐあの馬鹿を殺す』ってヒステリー起こしちゃうわね。
ああなったシュネーを宥めるの、大変なんだから。
次にシュネーがエーデシュ君を殺すって言い出したら、私はもうエーデシュ君を弁護しないからね。じゃ、頑張って」
言いたいことを言って、レイチェル女史が去っていく。
ええと――僕は、シュネー嬢に殺意を抱かれるくらい、とんでもないミスをした? でも、いつ? どんな?
「……まずは、あなたがやらかした、作戦全体を崩壊させる寸前まで行ったミスが何かを指摘しよう。
本当は、自分で気づいてほしいのだが、時間が惜しい。それに自力での到達を待っていると、私がまた、あなたを殺すと叫び出しかねない。そこを堪えられる自信がない」
すさまじい罵倒をされているが、僕の心臓は恐怖に縮み上がる一方で、とてもではないが奮起する気力は湧き上がらなかった。
「ここを出て、3日目のことだ。
緊張を切らせたあなたは、潜入捜査官としてあるまじき行為を行った」
「ええと……飲みに行ったこと、ですか」
僕の返答にソーニャ嬢が吹き出し、シュネー嬢が激昂する。
「あなたは馬鹿か!? そこまで馬鹿なのか!?
なぜ内事2課の局員として普通に行うことを普通に行うことが、失態になると思うのだ!? 何をどうしたら、そこからカバーが割れると思う!? むしろあなたは、普段は1日起きに飲みに出ているのに、ここを出た日、その次の日と2連続で直帰している。そうやって行動パターンを乱すほうが、よほど問題だ!」
「で、では、ここを出て2日目に、飲みに出なかったのが……」
再びソーニャ嬢が吹き出す。シュネー嬢はまたしても激昂。
「馬鹿、この大馬鹿! 確かに、行動パターンを乱すのは、小さなキズになる。敵の程度が高ければ、その小さなキズが、致命傷となることもある。
だが、あなたがやったことは、そんな上等なレベルの失態ではない!」
僕は縮こまって、シュネー嬢の怒りを受け止める。
「3日目の午前、あなたはクラマー中佐に向かって、とんでもない内容の愚痴をこぼしている。
あなたにとってみれば、遠回しな、なんでもない愚痴のつもりだったのだろう。だがクラマー中佐の隙を探している者達にとってみれば、あなたはクラマー中佐を背後から撃つ友軍に他ならなかった。
あなたは、クラマー中佐の動向を、敵に対して決定的に暴露した! それどころか、ついでのように我々のカバーまでも危うくしたのだ!
たった一挙動でここまで事態を悪化させられるのは、もはや才能としか思えない! 信じがたい!」




