Das Wunderkind Is Still Under Studying(3-5)
僕が最悪の死を覚悟したその瞬間、状況は再び一変した。
突然、バルコニーを照らしていた電灯が、すべて消えた。
残された灯りは、テーブルの上に置かれたキャンドルだけ。
「やはり来おったか、魔女ども」
フィッツ伯が、そう呟く。
「ククク。これで俺にも、運が巡ってきた。
魔女どもを皆殺しにすれば、あとはどうとでもなる。
貴様はそこで、自分を助けにきた魔女どもが死んでいくのを黙って見守るがよいわ。
この別荘は、事実上の要塞だ。魔女どもの襲撃を予想して、我が精鋭も配備してある。飛んで火に入る夏の虫とは、このことよ」
フィッツ伯がそう言い放つのと同時に、下のほうで銃声がした。
続いて爆発音。サブマシンガンが掃射される音。
そして、不気味なまでの静寂。
「フン。所詮は不正規戦に特化された、ゲリラ崩れよな。
鍛えぬかれた帝国軍精鋭の前では、鎧袖一触よ」
けれどフィッツ伯の余裕は、あっという間に吹き飛んだ。
帝国軍の戦闘服を身にまとった男がバルコニーに飛び込んできて、報告する。
「司令官! 敵に正面玄関を突破されました!
玄関を守備していた部隊は全滅、敵の現在地は不明!」
フィッツ伯の顔が、さあっと青ざめた。
「全滅!? 敵の現在地が不明だと!?
貴様ら、女子供相手に何をやっている! それでも栄光ある帝国軍兵士か!
ええい、構わん。戦力の逐次投入をするな。予備まで含めて、すべての兵力を投入せよ! クルスバッハ大佐は、投入した部隊の指揮をとれ!
敵は必ず、この別荘の内部にいる。総力をあげて探しだし、名誉に賭けて殺せ! 捕虜にしようと思うな!」
「ハハッ!」
クルスバッハ大佐と呼ばれた大男が、報告にきた兵士と一緒に、バルコニーを出て行く。
さすが、フィッツ伯は豪胆、かつ正統派の指揮官だ。
フィッツ伯はおそらく、フント・デス・モナーツの総数を把握している。そしてこの場に、彼女たちの数倍、ヘタすると10倍以上の兵士を集めている。
数で圧倒的に勝る軍隊が、少数の敵を打倒するために、やるべきことはただひとつ――物量に任せて、正面から叩き潰せ。その大原則に、フィッツ伯は忠実に従った。
また、別荘のどこかで銃声がした。
罵声と怒号が飛び交い、銃声と、発砲停止という大声と、銃声、悲鳴、そしてまた罵声と怒号。
この手のガチな軍事的衝突の場に居合わせたことがない僕にも、分かる。
フント・デス・モナーツは、伯爵の配下たちを手球にとっている。
そして実際、フィッツ伯は大いに焦っている。表情こそ厳しくも頼りがいのある指揮官そのものだが、その額に滲んだ汗を見逃す僕ではない。
と、クルスバッハ大佐がバルコニーに飛び込んできた。
「敵を発見、交戦するも、第2、第6小隊がやられました!
敵はなおも逃亡中! 閣下、万が一ですが、この指揮所にも敵が浸透する可能性があります! どうか地下指揮所に移動を!」
馬鹿者、とフィッツ伯は一喝。
「敵の狙いは俺を『より安全な場所』へと動かすことだ。それが分からんか! ムザムザと敵に誘導されてどうする!
それより敵の情報は! 侵入者は何人だ!」
フィッツ伯の怒号を真正面から受けたクルスバッハ大佐は、ひるみながらも、おずおずと答えを返す。
「げ、現在確認されている侵入者の数は――1名。敵は、1名です」
大佐の報告を聞いて、僕はいろんなことを理解した。
再び銃声と、悲鳴、罵声、怒号、爆発音。銃声、銃声、悲鳴。そして、静寂。
だから彼女は、そう呼ばれるのだ。
銃声。悲鳴。静寂。静寂。悲鳴。怒号。静寂。銃声。静寂。悲鳴。
「敵は一人だぞ! 何をしている!」
悲鳴。静寂。
ほら、もう僕にも聞こえる。
僕ですら、感じる。
とびきり危険な猟犬が、走ってくる。
舞うように、踊るように、死を振りまきながら、走ってくる。
「敵は一人だ」という断末魔を、伴奏にしながら。
だから彼女の名は――
「遅くなりました、エーデシュ少尉。
それから、はじめまして、フィッツ閣下。
私はアインと申します」




