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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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噴水広場の再会

 インターセプターが来たときから、もしかしたらとは思ってた。

 会えるかも、と期待して、その姿を探してしまったことを否定はしない。


「アレク……」


 ベンチに座った銀髪の青年が、こちらに首を回した。私の姿を映した濃緑の目が、嬉しそうに細められる。

 何でだろう。その顔を見た瞬間、自分でも不思議に思うほどほっとしてしまった。

 こんな風に人の姿を見て安心したり、じんわりうれしくなるなんてことが、美威や兄様以外でもあるらしい。

 でもほっとしたわりに、心臓は変なリズムを打っていた。

 ……これ、まさか不整脈ってやつか?


「飛那姫……元気だったか?」


 ベンチから立ち上がると、アレクはにごりのない綺麗な笑顔で私を迎えた。

 間近でその顔を見たら、安堵の訳が分かるような気がした。

 私に対する見返りを求めない優しさや、にじみ出るお人好しオーラ。大好きだった城の庭園みたいな雰囲気が、チクチク尖った心を丸くしてくれる。

 私はきっと、彼のまとっているこの空気が心地良いんだろう。


「あ……ああ、この間はありがとう。あ、伝書鳩(メンハト)も! ちょうど北に行ってたんだけど、ちゃんと受け取ったよ」


 色々世話になったことを思い出して、私は雑な感じの礼を言った。


「ああ、受け取れたようで良かった」

「アレク、もしかして西の大国に住んでるのか?」


 ここにいるということは、そういうことではないのか。


「あ……その、そうだな……ここに住んでいる」

「へー、じゃあプロントウィーグルの騎士だったのか」

「……そう、だな」


 なんとなく歯切れの悪い感じで、アレクが頷いた。

 何だろう? なんか変なこと聞いただろうか。


「飛那姫ちゃん! 置き去りは勘弁して!」


 そう言いながら、騒がしいマルコが人混みを分けて広場に入ってきた。

 アレクを見た瞬間、「げっ」と言って目を細くする。

 ん? 初対面だよな?


「……飛那姫、彼は?」

「本当は無関係だって言いたいけど。一応知り合いの、コソ泥」

「ちょっ、その紹介やり直し! ちゃんと、旅の同行者でステディ候補だって言ってください!」

「なんでそんな間違いだらけの説明をしなきゃいけないんだ……つーか、お前帰れ。私はもうちょっと一人で回るから」

「いやいや! 約束が違うよ! デートまだ終わってないから!」

「もう十分だ」


 ぎゃんぎゃん騒いでいるマルコに驚いたのか、アレクは微妙な笑顔になると首を傾げた。


「ええと……もしかして、お邪魔だったかな……?」

「うん! すっごく邪魔!」

「私にとって一番邪魔なのは、お前の存在だよ」


 アホな台詞を吐いているマルコの足をかかとで踏みつけて、ぐりぐりしてやる。


「痛い! 飛那姫ちゃんそれ痛いです!」

「誤解を生むような発言ばかりしてるからだ。とっとと帰れ」

「嫌だよっ、帰るときは一緒に帰る! 大体飛那姫ちゃん、一人で店まで戻れないでしょ?」

「なんとかなる。日付が変わるくらいまでには戻るから、美威にそう言っておいてくれ」

「無理無理っ、俺には絶対に帰れない理由が今出来たからね!」

「はあ?」

「そこのあんた、飛那姫ちゃんに何の用だか知らないけど……」


 アレクに向かってびしっと指を出した瞬間、そのままのポーズでマルコの体が上に持ち上がっていった。


「……ん?」

「インターセプター」


 馬大になった白い聖獣が、マルコのフードをくわえて持ち上げていた。

 地面から離れた足が、プラプラと宙を泳ぐ。


「えっ? これさっきの犬?!」

「犬じゃなくて聖獣。よしよし、いい子だな~、インターセプター」


 金色の目が笑ったように細くなったと思ったら、インターセプターはくるりと向きを変えてマルコをくわえたまま広場から出ていった。


「それ、どっか適当なところに捨ててきていいからなー」


 放せ犬! とか叫んでるマルコの姿が面白くて、私は笑いながらインターセプターに手を振った。

 アレクはぽかんとした顔でそれを見ていた。


「あーおかしい。アレク、インターセプターは賢くて可愛いな。私もあんな聖獣が欲しかったよ」

「え? ああ……彼は、いいのかい? あのままで」

「マルコ? いいよ。ついでに実家に連れて帰ってもらいたいくらいだ」

「デート中じゃ、なかったのか?」

「違う……と言いたいとこだけど、仕方ない事情があってさっきまで一緒に飲んでたんだ。悪い奴じゃないんだけどさ、ちょっと頭が弱くって。たまに言動が始末に負えない」

「そうか……うらやましいな、いつもそうやって気軽に君に同行したり、飲んだり出来るのは」


 そう言ったアレクの顔はなんだか元気がないように見えた。

 うるさいマルコと対照的だからかな。でもそれを抜かしても、やっぱりいつもより疲れているような、沈んでいるような、そんな顔だ。


「アレク、なんかあったのか? 表情暗いぞ?」

「え? そんなことは……いや、そう見えたら……すまない。家のことで考えなくてはいけないことが色々あってね。そのせいかもしれない」

「色々って?」

「珍しいね、飛那姫がそんな風に聞いてくるのは。いつもなら興味なさそうな話題だろう?」


 気になって聞いてみたら、逆に不思議そうに聞き返された。


「……なんとなく、聞いてみたかっただけ。話したくないなら聞かない」

「いや、話したくないわけじゃないんだが……つまらない話だから」

「ふーん……」


 なんだか釈然としない。明らかに落ち込んでるし。

 私はアレクが座っていたベンチにどかっと座ると、ポンポン、と隣を叩いた。


「座りなよ。悩みがあるなら話くらい聞いてやる」

「……飛那姫がかい?」

「私じゃ不満か?」

「とんでもない」


 笑いながらアレクは隣に腰を下ろした。

 視線の先にある噴水のしぶきが、オレンジ色の光に照らされていて綺麗だ。こんなに寒い時期なのに、北と違って氷点下にならない西の大国では、冬でもこんな光景が楽しめるんだな。


「で? 何に落ち込んでるんだ?」


 横顔を見上げる角度で、尋ねる。アレクの家のことはよく知らないけれど、悩みっていうのは外に吐き出してしまうだけで楽になることが結構あるものだ。


「よくある話だよ。飛那姫が聞いても面白くはないと思う」

「面白いから話せって言った訳じゃないんだけど……いいから話してみなよ。意外とスッキリするかもよ?」

「そうだな……端的に言うと、苦手な人と結婚することになりそうで、どうにも憂鬱なんだ」

「苦手な人と……」


 ……え? 今なんつった?

 感情の乗らない穏やかな声で告げられた内容に、私の心がぴたりと動きを止めた。

今日はバタバタ投稿でした。

本業の〆切に追われているので、明日と明後日はお休みをいただきます!


次回は、二人の対話だけで話が終わりそうです。

このところ目標の「1話2500~3000文字程度」がおおむね達成出来てるのですが、これで本当にちょうどいいのかは謎です。

「多いよor少ないよ」「面白いよorつまらんよ」的な2択アンケートとか出来たらいいんですけどね。

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