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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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忘れられた妹

 ショックだ……

 まさか鉄壁の要塞である飛那姫ちゃんに、好きな男がいたなんて。

 全然そんなそぶりがなかっただけに、ショックがでかい。

 会っていきなり飛びつくほど、会いたかったってことだよな。


「落ち着かれてください」

「少しは鍛えられませんと……女性一人受け止めきれないでどうするのですか」


 東の賢者のところの下働きらしいおっさん達が、尻餅をついたままの男に向かってそう言った。


 そうだよ、ちょっと顔がいいからって、女の子を抱き止められないくらいひ弱でどうするんだ。

 飛那姫ちゃんの好きなタイプは絶対強い男だと思ってたのに……

 完全草食系じゃないか! さすがに納得いかない!


「妹君ですよ、蒼嵐様」


 そうだよ! いくら妹だからって!

 ……え? おっさん達、今なんて言った?


「……妹?」


 飛那姫ちゃんにかじりつかれている男自身も、目を丸くして聞き返した。

 聞き間違いじゃないよな、今、「妹」って言ったよね?!


「えええええ?! 飛那ちゃんの、お兄さん?!!」


 美威ちゃんが横からでかい声で叫んでくれたので、俺は叫ばずにすんだ。

 なんだ、好きな男じゃなかったのか……


 俺は心底ほっとして、まだオロオロしている飛那姫ちゃんの兄を眺めた。

 髪の色は似てるけど、飛那姫ちゃんの方が薄いな。

 言われてみれば顔立ちも少し似てる。

 飛那姫ちゃんのお兄さんって言うと、ものすごく強そうで怖そうなイメージあるけど……真逆すぎる。どう見ても非力な文系だ。

 運動能力、妹に全部持っていかれたのかな……


「兄様……兄様……」


 当の飛那姫ちゃんは、杏里さんに会った時と比較にならない位、感情むき出しでぼろぼろ泣いていた。

 なんか、東に来てからこんな姿ばかり見てる気がする。

 慰めてあげたいけど、悲しいかな、俺の出る幕じゃないんだよな。


「ええ、と……僕、どうしたらいいのかな? 余戸……」


 飛那姫ちゃんをどう扱っていいか分からないようで、お兄さんはおっさん達に助けを求めた。


「ひとまず、説明が必要でしょうな。姫様にとっては、お辛い話になるかもしれませんが……」


 そう、この強そうなおっさん達、飛那姫ちゃんのことを「姫様」呼びなんだけど。

 何? もしかして飛那姫ちゃん、いいとこの家の子かなんかだったの?

 俺にも説明カモン!


 そういえば、俺以外にもこの状況を分かってなさそうな顔をした人がいた。

 俺は隣に立ったまま、困惑した顔で飛那姫ちゃんを見ている美威ちゃんに尋ねた。


「美威ちゃん、これ、どういう状況なのか分かる?」

「ううん……でも確か、飛那ちゃんのお兄さんて亡くなったはずじゃ……」

「え?」


 それって、死んでたはずの兄と再会ってこと?

 それじゃあ、あんなに泣くのも無理はないか……


「あんな飛那ちゃん、はじめて見た」


 美威ちゃんが、複雑そうにそう言った。

 ああ、うん。飛那姫ちゃん、美威ちゃん以外に甘えることないもんね。

 杏里さんと会った時だって、きっとそう思ったんだろうけど。

 これはまた、ちょっと……大分彼女らしくないものな。


「兄様……私です、飛那姫です……分かりませんか?」


 飛那姫ちゃんはそう言うと、少しだけ体を離してお兄さんと向き合った。

 あれ? なんか飛那姫ちゃんキャラ変わってないか?

 すごくしおらしく見えるのは、錯覚かな??


「7年も経ってしまったから、分からない……?」

「あ、いや……そうじゃないんだ。僕……」


 飛那姫ちゃんに至近距離で見つめられて、お兄さんはすっかりうろたえていた。

 いや、妹だろ? なんでそんなに赤くなってオロオロするかな。


「僕、昔の記憶がないんだ……」


 お兄さんのその言葉で、飛那姫ちゃんが目を見開いたまま硬直した。

 今確かに「記憶がない」って聞こえたけれど……

 それってもしかして、飛那姫ちゃんのことを覚えてないってことか?


「ひとまず……中に入りましょうか」


 しーんとなってしまった空間に、髪の短い方のおっさんがそう口を開いた。

 飛那姫ちゃんはそっとお兄さんから離れると、立ち上がって目元を拭った。


「……ごめんなさい、いきなり飛びついたりして……痛かったですか?」

「いや! 全然大丈夫! こちらこそ、なんかごめん……」


 ささっと立ち上がると、お兄さんもローブについた草を払った。

 正面に立った自分より少し高い位置にあるお兄さんの顔を、飛那姫ちゃんはまぶしそうに見上げた。


「兄様……本当に、生きていたんですね……」


 飛那姫ちゃんはそう言うと、両手をお兄さんの顔に伸ばした。

 潤んだ目でじっと見つめられて、お兄さんはそのまま固まってしまった。


「私のこと、全然覚えてないんですか……?」

「え、ええと……その……」


 飛那姫ちゃんからすると、感極まってるだけなんだろうけれど……

 その状態で見つめ合ってる姿は、端から見ていると、なんか、あぶない。

 お兄さん耳まで赤いし!

 飛那姫ちゃんを妹だって覚えてないなら、これ、ただ美女に迫られてるだけの構図にならないか?!

 ぐわぁーっ! うらやましい!

 俺も飛那姫ちゃんに、両手でほっぺ挟まれたい!


「ストップ! ストーップ!!」


 俺はとうとう、横からドクターストップを入れた。

 これ以上見ていたら、いくら兄相手でも俺のガラスのハートが砕け散る。


「お言葉に甘えて、まずは中でお話を聞かせてもらいましょう」


 飛那姫ちゃんは、お兄さん以外の存在なんかすっかり忘れていたという風に、提案した俺を振り返った。

 一瞬の後に、はっと我に返ったようだ。

 ささっとお兄さんから離れると、美威ちゃんのところに逃げていった。


「ごめん……ちょっと、あんまり驚いて、色々思い出したから……」


 そう言って飛那姫ちゃんは、美威ちゃんの後ろに隠れてしまった。

 うん、俺の心の平穏の為に、飛那姫ちゃんは美威ちゃんにくっついているといいよ!


「では、中でお話しましょう。どうぞ、お入りください」


 おっさん達が入口を開けて、俺達を塔の中へと招いてくれた。


 見晴らしの塔。

 東の賢者の住まい。

 まさかこんな展開が待っているとは……

 一体ここへ何しに来たのか、俺はその時にはすっかり忘れてしまっていた。


生きていた兄と突然再会して、幼児退行気味な飛那姫にびっくりな美威とマルコ。

蒼嵐の脳内も大変なことになっています。


次回は、マルコ以外に語ってもらいましょう。

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