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【習作】モンスターファミリア(仮題)  作者: くろぬこ
【第03章】次の戦へ
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【第22話】再召喚と個から軍へ

 

「いきなり、大将首を狙ったのか?」

「ええ、そうよ。でも、雷を纏った凄い槍使いに、串刺しにされてボロ負けしたわ。あともうちょっと近づけたら、喉を斬り裂いてあげたのにね。フフフッ」

 

 両手を広げておどけた仕草で笑うチェニータに、ルヴェンは苦笑いを浮かべた。

 

「あら? オサが言ったんじゃない。大将首を落とせたら、引き返してくれるかもって……」

「それはディーナと作戦会議をしてる時に、冗談で言ったヤツだ。いきなり大将首を狙って本当に落とせるなら、苦労しないから」

「たしかにそうね。もし、あの槍使いを倒せても、大将の周りに凄い数の兵隊さんがいたから、正面から突っ込んで大将首を獲るのは、ちょっと難しいかもねぇ~」

「凄い数だった。倒しても倒しても、次から次に湧いて来る」

 

 チェニータの背後から、ボソリと呟いた声がルヴェンの耳に入る。

 青と白の混じった体毛に覆われた、三メートルにもなる巨狼の狼頭人ワーウルフが二体、仲良く並んでワンコ座りしていた。

 

「そういえばウリガンは、死んだのは初めてか?」

 

 右側に座る巨狼の狼頭人ワーウルフが、コクリと頷く。

 

「うん。蟻の巣を穿ほじったみたいに、人間がいっぱいいた」

 

 ウリガンはたしか、デクトル達が襲撃をして来た時に、チェニータが率いてた狼頭人ワーウルフ達と行動をしていたよな。

 氏族長第三候補のフォルト相手に、全身を剣で斬り刻まれながらも、リーダーポジションの一人をしっかりと仕留めた優秀な子だと、ユイナが褒めていたな。

 

「クソチビ共が、あたいの身体にチクチクと剣を刺してきて。鬱陶しいたら、ありゃしなかったよ」

 

 前回の戦闘で、大剣使いの猪牙人オークのドズロムに四肢をバラバラにされたのに続き、また死亡回数を一つ増やしたからか、グルルルと唸り声を漏らしながら、不機嫌そうにルガンが愚痴を零す。

 

「確認したいんだけど。ディーナは、ちゃんと逃げれたのか?」

 

 宣戦布告の書状をディーナには託したが、再召喚した彼女達が口にした内容は、ルヴェンが想像していた何倍も激しい戦場だった。

 人の身であるため、死に戻りはできないディーナの安否が気になり、ルヴェンが皆が尋ねる。

 

「私は大将首を獲るのに夢中だったから。敵の偉い人に手紙を渡した後は、先生がどうなったかは知らないわね」

「あたいは、何度かすれ違ったよ。百人長とか言うのを倒してくれって、アイツが指差したヤツを倒しまくって……あれ? そういえばアイツ、いなくなってたよな? 死んだのか?」

 

 ルガンが不吉なことを口にしながら、隣に座るウリガンに視線を移す。

 

「生きてる。シグニ千人長を倒したから、オサに伝えてくれって言われた。お見送りもしたから、生きてる」

 

 ディーナの無事を教えてくれたウリガンの言葉に、ルヴェンが胸をなでおろす。

 ていうか、そんな大切な伝言をきちんと持ち帰って、戦場から離脱するところまで見送りをしたウリガンて、なにげに凄く優秀な子じゃないか?

 

「なんだ。アイツ、生きてんのかよ」

「さすが先生。しぶといわね~」

 

 他の二名が酷いことを言ってるが、そちらは放置しておく。

 死んでも再召喚できることばかりに気を取られてたけど、遠方の情報を死に戻りで持ち帰れるのって、実はかなりの利点じゃないか?

 

「ありがとう、ウリガン。その情報は、とても助かるよ。すぐにまた、戦場に戻ってもらいたいけど……。ブリン達が食事を作ってるから、飯ぐらいはゆっくり食っていけ」

「ウーフが、おみやげの肉が欲しいって、言ってた」

「大丈夫だ、ウリガン。保存が利く、お土産用のも作ってる」

 

 飯と聞いて即座に部屋を飛び出したルガンとは違い、戦場にいるハラペコ狼娘への気配りができるウリガンは、間違いなく長女タイプだな。

 

「見送りの時までに、ブリン達に用意させる。飯を食って、少し休んでいけ」

「うん、ハラペコ。お外にいる間、あんまり食べれないから」


 そう言いながら、のそのそとウリガンが部屋を退室する。

 部屋に残ったチェニータと、ルヴェンの目が合った。

 

「配給は、どんな感じだ? やっぱり、少ないのか?」

「一日の量は、ディーナとブンゴが相談しながら、決めてるけど……。食い意地が張ってる子は、やっぱり足りないみたいで、森の中にいる獣を捕まえて食べてるわね」

「そうか。それは仕方ないな……」

 

 普段から食事制限なんてしたことがないから、身体の大きなウーフ達はちょっと大変かもな……。

 今後を考えて、遠征の訓練もやっぱり取り入れないといけないか。

 

「あっ、そうだ。チェニータ」

 

 気になったことを書いたメモを取り出すと、紙をチェニータに渡す。

 

「ディーナと合流したら、伝えてくれ。再召喚は、問題なく成功。次はメンバーを増やしてくれと」

「了解よ、オサ」

 

 

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 

 

「ディーナ先生。今日の御飯が来ましたよ」

 

 頭上から自分を呼ぶ声に、ディーナは顔を上げた。

 眠らぬ城塞都市(ナイタイ)女暗殺者アサシンであるベリコが、程良い高さの枝木に立ち、望遠鏡を覗き込んでいる。

 魔闘気オーラを纏ったディーナが、一跳びでベリコのいる枝木に飛び移り、望遠鏡を受け取った。

 

「予定より、到着が遅かったな……。ルヴェン殿の予想通り、アヴァロム魔導王国の宣戦布告を聞いて、本国の召喚士達を警戒したか?」

「北の国境線は、大帝国の大軍との睨み合いで、たかだか一万の兵に応援を寄こす暇は無いって、私達は知ってるけど……。こっちは、まだ知らないかもね」

「王女の手紙のおかげで、チェニータ達との合流の時間は稼げた。ベリコ、皆を集めてくれ」

「はいはい」

 

 訓練中の仲間達を呼びに、召集をかけるベリコの背を見送った後、再び望遠鏡を覗き込む。

 前回の戦闘で、数百程度は削れたと思うが……。

 あまり、減ってるようには見えんな。

 長く連なる大蛇のように、どこまでも続く、武装した軍人の群れ。

 ディーナ達が潜む森から少し離れた場所に街道があり、街道を中心にドルシュ帝国軍がゆっくりと進行している。

 

「ニャフフ。今日も凄い人の数ですぞ、ブチ」

「せやな」

 

 ディーナがいる隣の枝木に、猫頭人ワーキャットのタマとブチが飛び移って来た。

 周りを見渡せば、猫頭人ワーキャットだけでなく、豹頭人ワーチーターの姿も増えていた。

 ディーナが立つ樹が、突然に振動で揺れる。

 太い枝木がしなり、大木を挟んだ反対側から、豹頭人ワーチーターのチェニータが顔を覗かせた。

 

「先生。みんな、集まったわよ」

「そうか」


 ディーナが枝木から飛び降り、森の開けた場所へと移動する。

 

「さて、諸君。ドルシュ帝国軍が、イグラード王国の国境を越えてきた。どうやら君達の襲撃は、大したことがなかったようだ」

 

 まるで馬鹿にしたような態度でディーナが投げた言葉に、森の中から顔を覗かせた魔物達から、鋭い視線が送られる。

 

「私を睨んでも、どうしようもないぞ。前回は君達の好きにやらせたが、喧嘩が通用するのは傭兵までだ。お前達は、目の前の敵を道連みちづれにして満足したようだが。足を止める程の脅威とは、奴らには思われなかった……。せいぜい、子犬が足に噛みついたくらいだろう」


 自身に集中する視線を、ディーナが静かに睨み返す。


「お前達は、死んでもオサが蘇らせてくれる。そんな甘え考えで、戦っているのだろう? だが、よく考えてみろ……。もしお前達が全滅すれば、オサは誰が守るのだ? お前達の知らぬところで、あの大群がオサのいる館を襲撃し、身を守れぬオサが嬲り殺しにされるところを、想像してみろ……」

 

 ディーナ言葉に、森の中から覗く者達が、静かにざわめく。

 ルヴェンの傍には、常にユイナが護衛してるので、館が襲撃されても彼女が上手く逃がしてくれるだろう。

 今回は、ものの例え。

 命は一つしかない人間の我々とは違い、命は無限にあると思い込んでる彼女達に、それを考えるきっかけになればと思ったが……。

 

 自分に集中していた、無数の鋭い視線が弱くなる。

 ただし、さっきとは違い、異様に強い視線がディーナを射抜いていた。

 まるで私がオサを殺したとばかりに、殺気立った目で睨む、褐色肌の大女とディーナの目が合う。

 

 牙無し(・・・)のオルグか……。

 猪牙人オークの名の通り、彼らには雄雌の性別に関係なく、口からはみ出す程の牙が生えてるのが普通だ。

 だが、彼女には猪牙人オークの特徴である牙が無い。

 せいぜい下顎の犬歯が、ちょっとだけ人間より大きいくらいだ。


 猪牙人オークのドズロムの戦魂ソウルを取り込んで、強化されたらしい彼女の働きには、少しは期待したいところだが……。

 召喚士が強制命令を行うための首輪が無い彼女が、オサであるルヴェン殿ならまだしも、私の命令にどれだけ従ってくれるかは、未知数ではある。

 とりあえず力を示せば、こちらに従う魔物達が多い中、どうにも彼女の態度は異質に感じる。

 ユイナには、オルグが一番信用できると聞かされたが……。


「ディーナも、私と同じように乙女心が理解できるようになれば、オルグとは仲良くなれますよ」

 

 何かを察した顔で意味深なことを呟いた、幼馴染の顔がディーナの脳裏によぎる。

 性癖がねじ曲がった変態に、純粋な乙女心があるとは思えんが、もう少し分かりやすい助言が欲しいところだな……。

 だが、悩んでも仕方がない。

 雌ばかりとはいえ、血の気の多い荒くれ者達の猪牙人オークを束ねてるのは、間違いなくオルグだ。

 今回の戦争でオルグとは、もう少し距離を縮めたいところだが……。


「あくまで想像の話だ。お前達の利点は、召喚士さえ生きてれば、何度でも蘇れることだが。戦争は、どんなに無様な負け方をしても、最後まで生き残った者が勝ちなのだ……。お前達の場合は、オサさえ生きてれば、また勝負を挑めるということだな」

 

 樹の根元に立てかけられていた盾を手に取って、ディーナが皆に見せるように持ち上げた。

 

「今回は、私の指示に従ってもらうぞ……。個での戦いは終わりだ。今度は軍としての戦いを教えてやる。足への甘噛みではなく、血を流して足を引きずる程の痛みを、奴らに教えてやれ!」


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