第103話 海神、弄ばれる
先に動いたのはクラーケン・ジュニアだった。
再生させた触腕と脚を自在に動かし、ネプチューンへ迫る。
さっきよりも速く、鋭い攻撃だ。
ネプチューンの召喚したこの領域は、水の生物にとってはバフの効果を持つ。
クラーケン・ジュニアも海の生物だ。さっきより俊敏になっているし、パワーも跳ね上がっていた。
「フッ──!」
しかしそれは、ネプチューンも一緒だ。
触手をかわしつつ、トライデントを大きく後ろに引き、体を反って力を溜める。
筋肉が隆起し、トライデントへ魔力と共に渦がまとわりつく。
直後──
「《水歪・穿ち渦》!!」
──射出。
突き出されたトライデントから、暴れ狂う渦潮が放たれる。
まるで引き絞られた弓矢の如く放たれた渦潮は、ギャングたちを粉々に砕いてクラーケン・ジュニアへ迫った。
「────!」
クラーケン・ジュニアは脚を自在に動かし、射線から脱出。
渦は神域を突き抜け、城の壁を穿って霧散した。
「無駄に素早いな」
巨体に見合わない速さに、ネプチューンは苦虫を噛み潰したような顔になる。
クロアが倒したクラーケンは、巨大すぎる故に攻撃は与えられた。その代わり耐久力が半端ではなかった。
対してクラーケン・ジュニアは、小さい代わりに動きが俊敏すぎる。
致命傷を与えるには、動きを止めなければならない。
攻防の最中に何度か捕縛魔法を使っているが、それも全て不発に終わっている。
となると、考えられる答えは一つ。
「やはり、親と同じで魔法は効かんか──!」
クラーケンの厄介な特性。
それは、反魔法。
魔法を全て無力化するものだ。
魔法攻撃は効かず、巨大すぎてまともな物理攻撃も効かない。
故に、クラーケンは海の悪魔として恐れられているのだ。
クラーケン・ジュニアが触腕を動かし、ネプチューンの両腕を絡めとる。
思わぬ怪力だが、ネプチューンも負けてはいない。
綱引きのように、両者の力が拮抗した。
しかしそのせいで、トライデントを振るえなくなってしまった。
「チッ……!」
着々と、ギャングたちは死に絶えていく。
だがクラーケン・ジュニアに神域の罠は効いていない。
「《海神の刃撃》!」
ネプチューンの頭上から放たれた水の刃。
だがそれも、クラーケン・ジュニアに当たると同時に散ってしまった。
(やはりダメか……!)
ネプチューンは魔法に関しても、海の中では最強を自負している。
が、このままではジリ貧だ。
最悪、負ける。
(ッ! 馬鹿か、余は! 余は海の神である! こんな奴に負けるなど……ァッ……!?)
不意を突かれ、ネプチューンの両脚と首にも触手が絡みつく。
それだけじゃない。胴体にも絡みつき、強く締め上げてきた。
「ぐぁ……!」
締め付けが強くなる。肉や骨が軋み、久しく感じていなかった痛みが体を駆け巡る。
と、クラーケン・ジュニアの体にしがみついていた頭領が下品な笑みを浮かべた。
どうやらクラーケン・ジュニアにしがみつくことで、神域の罠を無効化しているらしい。
「げひっ、げひひひひっ。いいぞジュニア、あの体だけエロいクソ女を辱めろ!」
「────」
残った脚が、ゆっくりとネプチューンへ迫る。
焦燥と同時に、恐怖が体を縛り付けた。
(なっ、まさかっ、そんな……!)
クラーケン・ジュニアに性欲はない。ただ自分を育ててくれた親の指示に従うのみ。
それはわかっていつつも、ネプチューンはこれから行われる惨劇を前に身が竦んでしまった。
(や、やだ……やだっ、やだよ……!)
魔法は効かない。頼りのパワーも封じられた。
このまま好き勝手やられてしまうなら、いっそのこと自分で命を……。
(ッ、ダメだ……そんなのはダメだ! 余は海の神にして、ディプシーの王! この程度では屈さぬ!)
あぁ、でも……。
「やはりあの方に全てを授けたかった──クロア」
「ダイナミックお邪魔します!」
次の瞬間、神域が爆ぜた。
「ハッ──!」
同時に、何かが一瞬にしてクラーケン・ジュニアの触腕と脚を斬り捨てた。
「お楽しみ中のところ失礼致します、女王陛下」
「……楽しんでなどおらん。……待っていたぞ、クロア」
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