第102話 海水、展開する
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海に住む巨大な怪物、クラーケン。
ネプチューンと同等の大きさを誇るそれは、8本の脚と2本の触腕をうねらせて王城へ入ってくる。
さすがの気持ち悪さに、ネプチューンは顔をひきつらせた。
「ジュニア……奴の倅か」
思い出されるのは、20数年前。クロアが初めてここを訪れた時。
当時、ディプシーの近くに巣食っていたクラーケン。
ネプチューンでさえ苦労していたクラーケンをクロアが仕留め、ゲソ焼きにしたのはいい思い出だ。
あれに比べたら確かに小さい。子供というのも頷ける。
が、たった20年でここまで大きくなるとは思わなかった。
「こいつはちいせぇ時に海で拾ったのよ。げひひひひっ。大切に育て、ディプシーは敵だと教育した……こいつで、このディプシーに住む魚人を支配する!!」
ギャングの頭領がクラーケン・ジュニアの頭に立つ。
ネプチューンを睨む眼光が鋭い。今にも食ってかかりそうなほどだ。
「貴様の親は、確かに化け物だった。海の悪魔と呼ばれるのも頷ける。……だがしかし、貴様はあれに比べれば小悪魔よな」
「────!!」
クラーケン・ジュニアが触手のように手脚を動かし、ネプチューンへ襲いかかる。
トライデントを手に、触手を切り裂き、貫く。
いくら武器を持っているとはいえ、クラーケン・ジュニアの手脚は10本。
しかも超速再生能力まであるからか、切り落としてもすぐに生えてくる。
それに加え、切り落とした触手の生命力も半端ではない。
本体と離れているのにまだ動き、ネプチューンへ迫る。
(くっ……! やはり奴の遺伝子を継ぐだけあり、しつこい……!)
このしつこさが、ネプチューンを長年苦しめてきた。
クロアがこれをどうやって仕留めたのか、本当にわからない。
本人曰く、殴って終わりと言っていたが、これを拳で倒せるなんて想像できなかった。
しかもそれに加え、ギャングたちも隙あらば攻撃をしかけてくる。
鬱陶しいことこの上ない。
このままではジリ貧だ。
(早々に終わらせる……!)
触手を弾き、ネプチューンはトライデントを地面に突き刺した。
胸の前で手を合わせると、膨大な魔力が迸る。
「立体魔法陣──」
ネプチューンの手のひらに、正四面体の魔法陣が現れる。
水色のそれは瞬く間に巨大化し、ネプチューンの体をすっぽり覆った。
「──神域・天冥水領」
直後、発動。
一瞬の内に部屋を覆うほどに魔法陣が巨大化すると、内側に大量の海水が現れた。
今まで見たことのない魔法に、ギャングたちは困惑する。
「これはっ、海水……?」
「馬鹿め、俺たちも魚人!」
「あんたにはおよばないけど、アタイたちだって……!」
水中を高速で移動するギャングたち。
地上で手に入れた銃火器は使い物にならなくなったが、それ以上に自分たちの身体機能が向上した。
まさに水を得た魚。連携の取れた動きで、ネプチューンへ攻撃を仕掛ける。
──が。
「この領域が、本当にただの海水だと?」
「何……? ぁ……がっ、ぼっ……!?」
「おぼっ、べっ……!」
急に動きが止まり、1番近くにいた魚人たちがもがき苦しみ始めた。
突然の変化に、他の魚人たちは目を見開いて距離を取る。
その間にも、徐々に、徐々に圧縮されていく。
手足が、体が、首が、全てが折りたたまれていき……最後には血を流すことなく、手のひらサイズの赤黒い球体となった。
「な、なんだ? どういうことだ……?」
「わ、わかりません。何が、何やら……」
頭領を中心に困惑の色が広がる。
仲間が死んだ。許せないことだが、それ以前に死因がわからない。
魚人はいかなる水圧の中であろうと死ぬことはない。
だが今のは、どう見ても圧死だ。
ネプチューンはトライデントを引き抜き、肩に担いだ。
「この神域において、余を中心に3つの罠を貼らせてもらった。余に最も近い罠が圧力。次に窒息。最後に斬撃……逃げも隠れもできなければ、神域から逃げることは不可能である」
ネプチューンの眼光が妖しく光る。
底知れぬ威圧感に、魚人たちは絶望感をあらわにした。
(まあそれでも、あのゲソにはほとんど効果ないのだがな)
クラーケンの遺伝子を継ぐのなら、例の可能性も考えられる。
ネプチューンは油断せず、トライデントを構えてクラーケン・ジュニアを睨みつけた。
「雑魚はどうでもいい。……貴様は、余の手で殺す」
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