第100話 勇者の母、勘づく
◆ウィエルside◆
市街地へやって来たウィエル。
頭の中の地図を元に、若干迷いつつ到着した。
が、迷っている間に王国軍と海のギャングたちは全面交戦していて、あちこちで煙が上がっていた。
上空からそれを見て、眉間にシワを寄せる。
(こんなにも自分の方向音痴を恨んだことはありません……!)
歯がゆい気持ちもすぐに切り替え、ウィエルは瞬時に魔法陣を展開。
面から弧に。弧から球へ──。
「立体魔法陣展開……星の源流よ、護り、癒し、夢の流れに導け──《無垢の星鎧》」
直後、魔法が発動。
防御魔法が、市街地にいる全市民へ掛けられた。
今まさに襲われそうな女性を包み、護り。
傷付き倒れている子供を包み、癒し。
怖いものを見せないよう、眠らせる。
「なっ!?」
「なんだこれは!」
「魔法!?」
「どこからだ!」
あちこちから戸惑いの声が聞こえてくる。
王国軍も、海のギャングも、未知の魔法に困惑していた。
と、そこに聞こえるネプチューンの声。
要約すると、この魔法は味方の魔法だから安心しろという内容に、王国軍は一気に活気づいた。
「ナイスアシストです、ネプチューン様」
『なに、当たり前のことをしたまでだ。余もできることはする。ウィエルも、為すべきことを為せ』
「はい。ここは私に任せてください」
ネプチューンからの念話を切断し、再び立体魔法陣を展開する。
今度は王国軍へ強化魔法を掛けようとした──次の瞬間。
「む」
遠隔から放たれた魔法の気配に、立体魔法陣を瞬時に防御魔法に切り替えた。
間一髪、水の刃が防御魔法に阻まれて霧散する。
流れ弾ではない。間違いなく、意図的に狙ってきた魔法だ。
魔法に込められた魔力の気配を辿り、実行犯へ視線を向けた。
逃げている。バレないと思ってるのか、街の中をジグザグに動いて。
「甘いですね。《ライトニング・ボルト》」
「────!?!?」
ウィエルから放たれた雷の魔法が、逃げている魚人を襲う。
当然向こうも防御魔法で対抗したが、あまりにも力の差が大きすぎて一瞬で貫かれた。
「邪魔をしないでいただきたいですね」
改めて王国軍へ強化魔法を施したウィエルは、地上へ降り立ち穴へと向かった。
廃墟の地下に開けられた穴。
倉庫の在庫でカモフラージュされている穴。
穴、穴、穴。
とにかく大量の穴が、至る所に開いている。
「よくもまあ、ここまで穴を開けましたね……」
魔法によって無から巨大な岩を創り出し、すっぽりと穴を埋める。
埋めて、埋めて、埋めて。たまに出くわしたギャング諸共埋めて、潰して、埋めて。
どれだけ埋めてもキリがないし、色んなところからギャングが出てくる。
クロアの読み通り、こっちが本隊みたいだ。
「それにしても……向こうも本気みたいですね」
建物は破壊され、黒煙が上がっている。
被害はかなり甚大だ。
が、なぜこうまで派手に暴れているのかがわからない。
(何か別の目的が? 陽動……? それにしても、あまりにおざなりなような)
こりずに襲ってくるギャングたちを蹴散らし、屋根に上って辺りを見渡す。
略奪、強奪の限りを尽くす海のギャング。
しかし王国軍のおかげで、ある程度は凌げていた。
「さすが軍隊ですね。統率されてますし、練度が高い。これなら……あれ?」
と、気付いた。
海のギャングから市民や街を守るため、王国軍が集まっている。
ということは、城には最低限の警備しかいないということ。
「──ネプチューン様……!」
ウィエルの視線が城へ向く。
直後、城から爆音と共に黒煙が上がった。
「チッ! ネプチューン様、聞こえますか!?」
『ウィエルか。こっちは大丈夫じゃ。余に任せよ』
「ですが、あなたはこの国の王で、海の神です。何かあったら……!」
『ふはははは! 余がこの程度の賊にやられると思うか? 海神の恐ろしさを見せつけてくれようぞ』
ネプチューンとの念話が切れると、城の方から莫大な魔力を感じた。
魔力量で言えば、ウィエルと同等……いや、もしかしてそれ以上かもしれない。
「海神の名は伊達じゃない、ということですか……」
確かにあれなら、手助けに行く必要もなさそうだ。
ウィエルはすぐに頭を切り替えると、まだ開いている穴を塞ぐために街へと飛び降りた。
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