第99話 勇者の父、殴り埋める
◆クロア・ウィエル◆
海底の国ディプシーの郊外にある、サンゴの荒野。
クロアとウィエルは超高速でそこへ向かうと、ウィエルが探知魔法を発動した。
「──あなた、そこです」
「わかった」
ウィエルが指差す場所へ向かうと、大人一人が通れるほどの穴が開いていた。
ここが、海のギャングの開けた穴だ。
こんなものが国中に散らばっているらしい。
口の中に味のない苦味が広がる。
クロアは拳を握ると近くの岩を殴り砕き、穴へ投げ込んで塞いだ。
相当な重さだ。魚人族の怪力と言えど、これを持ち上げることは至難だろう。
だが、こんなことを一つ一つやっていても埒が明かない。
「ウィエル、俺の脳内に地図を出せるか? 手分けして潰そう」
「わかりました」
ウィエルがクロアの手を包み込むと、脳内に周辺の地図と穴の位置を表す印が浮かび上がった。
この付近だけでも三十もある。
国全域を考えたら、もっとあるだろう。
「俺はあっちを。ウィエルは向こうを頼む。潰した箇所は随時分かるようにしてくれ」
「はいっ」
ウィエルと分かれ、クロアは脳内地図を頼りに穴を埋めていく。
近くに手頃な岩がなければ、穴の周りを砕いて埋めた。
「ふむ、殴り埋めた方が楽だな……よし」
作戦変更。今度は殴り埋めていく。
殴って、殴って、殴って。その時だった。
「ひゃっはー! 俺が一番乗りぶべらっ!」
「あ」
突然出てきた魚人諸共岩を殴り砕き、穴が塞がった。
さすが魚人。なかなかの耐久力で、即死は免れたみたいだ。
が、それも時間の問題だろう。
「今のが海のギャングか……ウィエル」
『はい、あなた。こちらにも出てきました』
ウィエルの声が脳内に響く。
まるでクロアの動向を見ていたように、欲しい言葉が直ぐに返ってきた。
「チッ、少し遅かったか……!」
『穴は市街地の方にもあります。私はそちらに』
「頼む」
市街地になれば、クロアの馬鹿力よりウィエルの繊細な魔法コントロールの方が有利だ。
適材適所。ウィエルが空を飛んでいく魔力の軌跡を目で追い、クロアは気配探知を研ぎ澄ませる。
塞がってない穴は、あと二十一。
そこから、大量の魚人族が這い出てくる気配を感じ取った。
場所もバラバラ。数も多い。
分散して侵入することで、こちら側を撹乱しようとしているのだろう。
ここまで来たら、普通なら侵入を防げない。
「──上等」
が、海のギャングが不幸なのは、ここに普通じゃない男がいることだ。
気配を辿り、超高速で穴へ近付く。
岩場に隠れていた武装している数十人の魚人を、目視で確認した。
「ん? なっ、なん──」
「ふんッ」
クロアの拳が一人の魚人を殴り砕く。
突然粉砕された仲間と、その元凶を見て、魚人たちは目を見張って動けずにいた。
パワーに自信のある魚人族といえど、こんな芸当はできない。真似しようとも思わない。
クロアは無言のまま素早く視線を動かすと、近くの魚人を掴んで集団へ投げつけた。
それだけで、十人以上の魚人が砕け散る。
ありえないパワーに、思わず海のギャングは後退りした。
「ま、待て! なんなんだお前ぷげっ!?」
「待たない。お前らを逃がすと、また不幸な人が生まれてしまうからな。……貴様らは害悪だ。ここで潰させてもらう」
言い終える前に、この場にいる全員は肉塊と化す。
時間がない。クロアは返り血を気にすることなく、次の場所へ走っていく。
その時。ウィエルが脳内に話しかけて来た。
『あなた。ネプチューン様から連絡があり、王国軍もこちらに向かっているそうです』
「わかった。こっちは少なくていい。市街地の防衛を最優先で」
『伝えておきます』
ウィエルからの連絡が切れ、その間も絶え間なく海のギャングたちを殲滅していく。
今は時間が惜しい。
ディプシーを守るため、クロアは更にギアを上げて駆け出した。
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