第98話 弟子二人、戦闘開始する
◆ミオン・ドーナ◆
「はあぁ!」
「おべっ!?」
ミオンの放つ高速の蹴りが魚人の腹部を蹴り抜き、くの字に曲がって吹き飛ぶ。
「姉弟子!」
「ぼっ……!?」
背後からミオンを襲う魚人に、ドーナが剣撃を叩き込む。
二人が背を合わせて周りを見る。
洞窟の中には百人を超える魚人がいて、二人を囲んでいた。
当然、全員武装している。
どこからか調達してきたのか、まるで新品同様の武器だ。
しかも、ドーナの構えている剣と似ている気がする。
「おかしいですね……人数が少なすぎます」
「はい。しかもあの武器……俺の持ってるものと同じっす」
「どういうことでしょうか。なぜ彼らがドーナさんと同じ武器を……?」
「わかりませんが、とにかくぶちのめします……!」
「あ、ちょっと……!」
ドーナが剣を構え、超高速で近くの魚人を斬り伏せた。
あまりの速さに、魚人たちは無抵抗のまま絶命する。
ドーナの動きは止まらない。斬っては次へ。また斬っては次へ。
瞬く間に、洞窟内に魚人の死体が積み上がる。
(まずいですね。今のドーナさんは急ぎすぎていますっ。このままでは……!)
ミオンは振り下ろされた剣を蹴り砕き、顔面を踏み台にして跳躍。
上から全体を見渡すと、海のギャングの一人が他の魚人とは動きが違うことに気付いた。
ドーナは目の前の敵ばかりに集中して、その一人に気付いていない。
気配の消し方も上手い。間違いなく、この中でも相当の実力者だ。
そいつはドーナの背後を取り、今にもナイフを突き立てようとしている……!
「チッ──!」
魔力を足裏へ集中。
空間を蹴り、ギリギリの所でナイフを蹴り上げて弾き飛ばす。
二発目の蹴りを叩き込もうとするが、惜しくも寸前で回避された。
「あ、ありがとうございます、姉弟子」
「お礼は結構です。もっと周囲に気を配って」
「お、押忍……!」
再度、二人は背中合わせに周りを警戒する。
今の一瞬で十五人は仕留めた。
けど、まだまだ敵は山ほどいる。
しかもそれだけじゃない。今ミオンと対峙している魚人族のような実力者も、まだ何人か混ざっている。
「今のままではジリ貧です。それに、これだけの大洞窟でなぜこんなに人数が少ないのかも気になります……ドーナさん。少しの間、私を守りつつ交戦してください」
「任せてくださいっす」
ドーナが落ちている剣を拾い、二刀流の構えで周囲を警戒する。
弟弟子の実力はわかっている。相手も強いが、この程度なら負けるはずがない。
ミオンは自分の内に集中し、魔力を練る。
その間、ドーナはさっきのナイフ使いと剣を斬り結んでいた。
(このナイフ、どこかで見たような……?)
「チィッ……!」
ドーナの連撃に、相手も対応する。
が、ドーナの力が想定外なのか、焦っているように見える。
それもそのはずだ。
ドーナの力は、今や王国軍の副隊長クラス。そんじょそこらの敵に負けるような戦闘力ではない。
(ドーナさん、落ち着いていますね。これなら大丈夫でしょう。さて……)
ミオンの方も準備は整った。
練った魔力を喉に。そして口周りと耳に集め、息を吸う。
(反響探知──!)
常人では聞き取れない超超超高音がミオンの口から放たれ、アリの巣状に広がっている洞窟内に反射する。
反射した音が、身体強化魔法で強化されたミオンの耳に入って、洞窟全域の構造がミオンの脳に入って来た。
「これは……! ドーナさん、急ぎますよ! この洞窟、一本だけとんでもなく深く掘られています!」
「どういうことっすか!?」
「この深さ、恐らくディプシーに続く洞窟だと思います! ここにいる奴らは、全員私たちを足止めしてるにすぎません!」
そこまで説明されて、ようやく理解した。
ということは、これ以上の人数がディプシーに向かっているということ。
「気付いたところでもう遅い!」
「うっ……!」
ナイフ使いがドーナの剣を片方弾き飛ばす。
ナイフを返して迫ってくる。ギリギリ回避するが、頬がぱっくり切られて血を流した。
「我々海のギャングは、海底の国ディプシーへ侵攻する。その数約五千。もう誰も止められない」
「ご、五千……!?」
あまりの規模に、ドーナは愕然とする。
そんなに多いとは思っていなかった。もしそんな数の賊が入り込んだら、ディプシーは破壊されてしまうだろう。
どうにかしてこいつらを倒し、ネプチューンに報告しなければならない。
でも、どうやって……?
気持ちが急いていると、ミオンがくすりと笑った。
「……何がおかしい」
「姉弟子……?」
「ああ、失礼しました。……その方々、お気の毒だと思い」
ミオンの不敵な笑みに、その場にいる全員戦慄した。
五千人が侵攻してくるのに、こっちが気の毒だと言った。
真意はわからない。が、はったりとも思えない。
物事は悲観的に考えた方がいい。
ナイフ使いは戦闘のギアを一段階上げた。
「ドーナさん、行きますよ」
「押忍!」
二人もギアを上げ、敵へ突っ込んで行った──。
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